三井物産が2025年以降に「引退」が検討されている国際宇宙ステーション(ISS)の民間主導の後継計画に名乗りを上げる方針であることが、日経ビジネスの取材で分かった。国際協調のもとで運用してきた宇宙での実験施設が将来、民間主導になった場合、日本企業が参画する足場を確保する狙いがある。

ISSは老朽化が課題になっている。日本は実験棟「きぼう」を持っている(写真:NASA提供)
ISSは老朽化が課題になっている。日本は実験棟「きぼう」を持っている(写真:NASA提供)

 ISSは日本や米国、カナダ、欧州宇宙機関加盟各国、ロシアの15カ国が協力して運用している有人の宇宙ステーション。地上から約400kmの軌道で地球や天体を観測し、宇宙環境を利用した研究や実験を行っている。

 1998年に建設が始まり、運用期限は2020年から24年への延長が合意されているが、30年代に「寿命」を迎えるという見方がある。月面有人探査を優先するトランプ米前政権が25年以降のISSへの資金拠出を打ち切り、民間に移転する方針を示していたが、米議会には28~30年まで運用を延長する法案が提出された。欧州は30年まで延長する方針を示しており、しばらくは各国による運用が続く可能性がある。

 ISSの一部である日本の実験棟「きぼう」は09年に完成しており、比較的新しい。文部科学省は「ISS を含む地球低軌道における 2025 年以降の活動については、各国の検討状況も注視しつつ、検討を進め、必要な措置を講じる」としている。

 関係者によると、三井物産はISSの建設、運用が民間主導になった場合に備え、米企業との提携を視野に入れて協議を始めた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)にも意欲を伝えている。宇宙ステーション全体の建設費用は数千億円規模になるとみられるが、きぼうのような1つのモジュールは「数百億円で済む」という。JAXAの支援を受けつつ、企業コンソーシアムを形成し、この部分に資⾦を拠出することを想定している。

 実際に日本の民間企業が宇宙ステーションに参画する場合、①現在のきぼうを改修して、米国企業が建設するであろう新たな宇宙ステーションとつなぐ②新たなステーションに接続できるモジュールを新造する③米国企業が建設したステーションの一部を買う・借りる──などの手法が考えられる。

宇宙で商社が生きる道

 米国主導の有人月探査計画「アルテミス計画」へ日本も参加を表明するなど、主要国の政府の関心は月など「深宇宙」へ向き始めている。しかし、ISSがある地球の低軌道の重要性は変わらないと三井物産はみている。「地上400kmまでは重力を突破するのに苦労するが、それ以降の推進は比較的難しくない。今後も地球低軌道は宇宙の入り口として重要になる」(同社関係者)ためだ。

 一方、米国と宇宙での覇を競う中国は22年ごろまでに独自の宇宙ステーション完成を目指している。今後激しくなる宇宙競争において、日本がどういったポジションを取るべきかが重要になる。

 宇宙で人が暮らすには、医療や細胞培養、家電が使えるかどうかといった様々な実験も必要だ。地上の人々の暮らしを支える日本企業が、宇宙に進出するためのイノベーションの場を確保しなければ宇宙ビジネスで後れを取る恐れがある。

 ISSの維持費は年間数千億円とされ、日本だけで2010年代以降、毎年度200億~400億円ほどを予算に計上しており、費用対効果も注目されてきた。三井物産が民間事業者として宇宙ステーションの後継計画に参画するには、宇宙に関心が低かった企業の進出意欲をかきたて、宇宙ステーションを使う需要を広げられるかが鍵になる。

 JAXAは衣食住やエンターテインメント、教育など科学的な研究分野以外での民間利用を広げたい考えで、「総合商社としてのネットワークを活用して、需要を集めてくる」(三井物産関係者)ことが期待されているようだ。既に三井物産は他社と共同で、人工衛星の打ち上げを仲介する米スペースフライトを買収するなど、宇宙と地上の企業をつなぐ事業へ乗り出している。

 旅行などで宇宙ステーションの商業活用を狙う米ベンチャーAxiom SpaceはNASAからISS に接続するための新たな居住モジュールの建設を20年に受注した。米国では民間主導の後継計画を見据えた動きが本格化している。

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