日本コカ・コーラはチューハイ・サワー市場で最後発ながら、全国展開からわずか1年足らずで一定の地位を築いた。バルミューダは成熟し切ったかに見える白物家電の世界で独自の存在感を放つ。後発企業がどうやったらレッドオーシャンの市場で勝てるのか。両社にその条件を探った。

日本・コカ・コーラのレモンサワー「檸檬堂」は計画を大きく上回るペースで販売が伸びている
日本・コカ・コーラのレモンサワー「檸檬堂」は計画を大きく上回るペースで販売が伸びている

 日本・コカ・コーラのレモンサワー「檸檬堂」は計画を大きく上回るペースで販売が伸びている。

 「全国展開の初年度にもかかわらず『定番レモン』はトップシェアを獲得していることをうれしく思う」。2月12日にコカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスが開催した2020年12月期の決算説明会。オンライン会見に登壇したカリン・ドラガン社長は自信を見せた。

 「アルコール離れ」が叫ばれる中でも10を超えるブランドがひしめくチューハイ・サワー市場。そんな激戦区で日本コカ・コーラが手掛けるレモンサワー「檸檬堂」の販売が絶好調だ。20年の販売数量は約790万ケース(350ml缶×24本換算)と、当初計画の500万ケースを大きく上回った。冒頭の発言通り、ラインアップの1つである「定番レモン」はレモンサワー市場の金額シェアで1位を獲得したという(インテージSRI調べ)。

 檸檬堂は日本コカ・コーラにとって初のアルコール飲料となる。18年5月に九州限定で発売され、19年10月から全国で販売を始めた。レモンサワーに特化し、アルコール度数や味で現在は5種類のラインアップを展開するのが特徴だ。

 最後発ながら全国展開からわずか1年足らずで一定のポジションを奪取した檸檬堂。日本コカ・コーラは、レッドオーシャンといえる市場をどのように攻めたのか。

居酒屋に足しげく通う

 日本コカ・コーラでアルコール市場への新規参入の検討が始まったのは17年ごろ。炭酸や果汁など清涼飲料で培ったノウハウが生かせることもあり、「(チューハイなどの)低アルコール飲料は有力候補だった」と、アルコールカテゴリー事業本部長の関口朋哉氏は振り返る。

 ただ、清涼飲料市場で高いシェアを誇る日本コカ・コーラもアルコール市場ではあくまでも新参者だ。「最後発だし、他社と同じことをしても勝てない中で何を出すべきか悩んだ」と関口氏は話す。アルコール商品への知見がない中で、消費者や市場調査のデータ分析だけでは解が見えない。そこで関口氏ら開発チームは「家庭用市場だけでなく、世の中全体のお酒のトレンドを見つめ直した」という。

関口氏は「市場調査は重要だが、それだけでは見えてこない」と話す
関口氏は「市場調査は重要だが、それだけでは見えてこない」と話す

 関口氏ら開発チームが取った行動は、全国にある人気の居酒屋やバーに足しげく通うこと。その数はメンバー1人当たり数十店舗。そこからまず、アンケートなどのデータ分析だけではおぼろげだったレモンサワーのトレンドが「確実に来ている」(関口氏)と実感できた。

 地道に現場を回るうち、発見したのがレモンサワーの豊富なバリエーションだ。素材や製法にこだわって1杯1000円で提供する店があれば、1店舗で10種類出している専門店もあった。しかも「こうした独自の進化を消費者が楽しんでいる」と関口氏。「レモンサワーに特化する」という檸檬堂のコンセプトが固まっていった。

 さらに全国の居酒屋やバーを巡る中で、商品の決め手となる「味」のヒントも得た。その1つが、九州では一般的な「前割り焼酎」という習慣だった。焼酎を事前に水で割っておくことで、水とアルコールのなじみをよくするというもの。これをレモンサワーに応用してみると「専門店のような味を作り出せた」(関口氏)。こうして生まれたのが、丸ごとすりつぶしたレモンをお酒にあらかじめ漬け込む「前割りレモン製法」だ。

 「市場調査は重要だが、それだけでは見えてこない」と関口氏。徹底的なデータ分析を駆使するイメージが強い日本コカ・コーラだが、檸檬堂が成功した背景には「データに頼らない」という戦略があった。

 最後発ながらレッドオーシャン市場でシェアを奪取したのは日本コカ・コーラだけではない。家電メーカーのバルミューダもそんな1社だ。

 まるで浮いているかのような操作性――。

 バルミューダが20年11月、新たに参入したコードレス型のスティック掃除機。最大の「売り」は使い勝手だ。ゴミを吸い込むヘッド部分に2本のブラシを搭載し、それぞれが内側に回転することで床との摩擦を低減。さらにヘッド部分は360度回転できるようにした。これらの技術を組み合わせて「ホーバークラフト」のように浮いているような操作性を実現したという。

 市場想定価格は5万9400円と、英ダイソンなどが得意とする高級ゾーンの商品。これまで調理家電などを手掛けてきたバルミューダにとって大きな挑戦だったが、「引き合いは好調」とマーケティング部の半澤直子部長。具体的な販売台数は「非公開」としながらも、取扱店舗数は「20年末の約500店から21年3月末には約800店に拡大する予定」と明かす。

2020年末に東証マザーズに新規上場したバルミューダ。新たに掃除機に参入した(写真:ロイター/アフロ)
2020年末に東証マザーズに新規上場したバルミューダ。新たに掃除機に参入した(写真:ロイター/アフロ)

 03年設立のファブレス家電メーカーであるバルミューダ。独自構造の羽根で自然の風を再現する扇風機やスチーム機能を備えたトースターなどを相次いで投入し、大ヒットにつなげた。パナソニックや三菱電機など大手に加え、ダイソン、アイリスオーヤマなど参入が相次ぐ市場で存在感を高めている。

 そんなバルミューダが新たに参入した掃除機の開発は、18年末に始まった。「掃除機を作ってほしい」という消費者からの声を受けた寺尾玄社長自身が、掃除機は取り出すのさえ面倒なのに「動かせるのも前後だけ」という不満を感じたことがきっかけ。雑談の中でメンバーに疑問を投げかけたところ、デザイナーの1人から2本のブラシを使うアイデアなどの提案があった。トントン拍子で開発にゴーサインが出たという。

 実は、こうした過程を経て商品化されるのは掃除機だけではない。バルミューダが新規参入する商品のほとんどは、寺尾社長とデザイナー、エンジニアからなる数人のチームでの雑談から生まれている。

いかに感情が動くかを追求

 プレゼン資料を用意する必要はなく、市場調査などのマーケティング活動は一切しない。必要に応じてモックアップ(試作品)を作成する程度だ。「自らが消費者目線で、現状の不満を解消していくアイデアが求められる」(半澤部長)という。

 単なる改善では意味がない。アイデアを出した後、実際に開発するかどうかを決める上で重要な基準は「開発者自身が消費者として『驚き』や『面白さ』といった感情が動かされるかどうかにある」(半澤部長)。そうした感情が、最終的に多くの消費者に共感を呼ぶことができれば、商品は売れる。

 固定概念を抱いたままでは、驚きや面白さは生まれない。バルミューダの開発チームは、消費者の想像を超えられそうなアイデアだけを検討する。今回の掃除機の場合、自由自在に動かせるという使い勝手によって、今までの消費者が抱いたことのない感覚を実現させられると踏んで商品化に至った。バルミューダにとって新規商品の開発は狭き門で「アイデアが通過し開発にゴーサインが出ても商品化されるのは1割程度」と半澤部長は話す。

 「我々のやり方はまだまだ展開できる。新しいジャンルの製品を切り開きたい」。20年末には東証マザーズに新規上場を果たしたバルミューダの寺尾社長はこう意気込みを語った。調達した資金は成長投資につぎ込み、25年までに複数の新分野への参入を目指す計画。消費者の想定を超える驚きを目指し、「内なる顧客」と向き合っていく。

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