ジョブズが夢見たアップルの自動車プロジェクトは、テスラを上回る革新を実現できるのか

アップルの自動車開発プロジェクトが、どうやら復活しているらしい。だが、クルマの概念を一変させるような製品は、すでにテスラが世に送り出している。こうしたなか、アップルは世界を驚かせるような新しいクルマをつくりだせるのだろうか──。『WIRED』US版エディター・アット・ラージ(編集主幹)のスティーヴン・レヴィによる考察。
Apple Campus
JANE TYSKA/MEDIANEWS GROUP/THE MERCURY NEWS/GETTY IMAGES

「次はどこに進むべきだろうか?」と、スティーブ・ジョブズに聞かれたことがある。いまからちょうど10年くらい前の話だ。このときアップルの最高経営責任者(CEO)は助言を求めていたわけではなく、自社の将来の話を持ち出したのである。自分がもういないであろう未来のアップルの話だ。

わたしはジャーナリスト仲間のジョン・マルコフと共にジョブズと非公式に面会していた。彼との対話は最後になるかもしれないという暗黙の了解があったが、実際その通りになってしまった。ジョブズはその年の暮れに亡くなったのである。この2月24日は彼の誕生日で、生きていれば66歳だった。

ジョブズの問いに対し、マーコフは音声技術の分野を提案した。わたしはアップルが「ホームエンタテインメント」の分野で本当の意味で足跡を残していない点に言及した。

ところが、ジョブズには別の考えがあったのだ。「アップルがクルマをつくることはあるのですか?」といつも尋ねられると、このときジョブズは語っていた。「10歳若くてもっと健康だったら」と言って、ジョブズは続けた。「きっとやるだろうね」

復活した“アップルカー”の計画

それから10年。アップルのデヴァイスはユーザーの問いに答えられるようになり、アップルはハリウッド映画まで制作している。そして信頼できる筋によると、いまアップルはクルマづくりを本気で考えているという。

数年前にアップルは、自律走行車の開発から手を引いたと報じられていた。ところが複数の情報筋によると、アップルは開発プロジェクトを再開したというのだ。

上級幹部のジョン・ジャナンドレア(グーグルで人工知能分野の責任者を務めていた)が担当になり、生産については韓国の現代自動車とタッグを組む可能性があるという。また、自動運転をサポートするレーザー光を用いたセンサー「LiDAR(ライダー)」を物色中であるとされている。

一部の観測筋は、自動車業界の利ざやはソフトウェアの世界に比べれば微々たるものであるとして、こうした話を冷ややかに受け止めている。だがアップルは2兆ドル企業であり、主力製品であるiPhoneの市場は飽和状態に近づきつつある。自社の株価をこれからも押し上げてくれるようなビジネスに進出する必要があるのだ。

自動車分野においてアップルのライヴァルになることは必然であろうテスラについて、ウォール街は現時点で7,000億ドル(約74兆6,000億円)程度の評価を与えている。アップルがそのような飛躍を実現できる場所がほかにあるだろうか?

あるアナリストは、アップルが自動車市場の1%を手にすることができれば、500億ドル(約5兆3,300億円)の収益が得られると分析している。これは興味深い意見だ。なぜならジョブズは2007年にiPhoneを発表した際、市場の1%を確保できれば1,000万台が売れるだろうとの控えめな見方を示していたからである。その後、iPhoneは何十億台も売れた。

自動車の概念を覆せるか

アップルは自動車分野で成功できるのだろうか? 同社が最近発売したMacは高速のチップだけでなく、バッテリーの持続時間も過去最長と群を抜いていた。このため“アップルカー”に、電気自動車EV)の情勢を一変させる革新的なバッテリー技術が備わる見通しであるとのニュースを聞いても、驚きはなかったのである(一方でMacは、プリンターやリングライト、外付けドライヴといった一般的な周辺機器に接続する際には、いまだにアダプターを必要とする)。

しかし、より重要なのは、アップルがクルマの概念を転換させるような製品を生み出せるかどうかだ。すでにテスラがそうしたことを実質的に実現しているので、これは大きな挑戦となるだろう。


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テスラ車を運転してみると(もしくは単に同乗するだけでも)、ついにわたしたちの生活の中心となっている技術を組み込んだ自動車が登場したのだとすぐに実感できる。広いディスプレイを備えたダッシュボードからは、自動車の機能だけでなく、周囲の「常時接続された世界」にも最大のアクセスが提供される。テスラ車を「走るiPhone」と称する声も聞かれるほどだ。

それをまねするのは、至難の業だろう。しかし、iPhoneを生み出したブランド以外にマスクに太刀打ちするにふさわしい企業が、ほかにあるだろうか?

反応の鈍かったデトロイト

気の毒なことに(予想通りとも言えるだろうが)、デトロイトの自動車メーカーはその点を理解していないようだ。

わたしは2015年に、自らの名を冠した企業の会長であるビル・フォードに面会し、テスラをどう思うか尋ねたことがある。彼は「通常の組み立てラインから生まれたライヴァルのひとつにすぎない」といった体で、それなりの賞賛の言葉を述べた。わたしは彼の体を揺さぶりたくなった。「これは駆動系の話じゃないんだ、ビル。大変革なんだよ!」と。

同じ年、ゼネラルモーターズ(GM)のCEOであるメアリー・バーラが、ある会議で同じような質問を受けた。対談相手は、単に彼女にテスラを認めてほしかっただけだったのだが、その答えは同じように鈍いものだった。「ええ、テスラのクルマは運転してみました」と彼女は言った。

テスラ車に関する彼女のコメントで最も好意的だったのは、せいぜい「新しい」というものだった。それから6年がたったいま、フォードとGMはともに信頼性の高いEVを開発しているが、テスラ車のように息を吞むようなクルマではない。テスラの株価が両社を合わせた額の数倍にまで達している理由が、そこにある。

イーロン・マスクへの挑戦

これらを踏まえると、今世紀の路上を制する戦いにおいて、イーロン・マスクの挑戦者として最も有望なのはアップルであるとみなすのは理にかなっているだろう。

アップルによる自動車開発は決まったわけではない(そしてもちろん、アップル自身も計画についてコメントしていない)。しかし、実現したあかつきには、ジョブズ自身がパーソナルコンピューターや音楽プレイヤー、電話にもたらしたような、クルマのイメージを一新するコンセプトが「iCar」に反映されることを願っている。当然、充電の際にアダプターが必要なんてこともないはずだ。

※『WIRED』によるアップルの関連記事はこちら。電気自動車(EV)の関連記事はこちら


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TEXT BY STEVEN LEVY