人気映画の原作続編『Ready Player Two』は、AIが生成したような世界観に満ちている:ブックレヴュー

映画『レディ・プレイヤー1』の原作となったSF小説の続編『Ready Player 2』の英語版が刊行された。前作と同様にポップカルチャー満載の作品に仕上がっているが、結果として“似たような話”になった印象も否めない。まるで人工知能(AI)が生成したストーリーのように──。『WIRED』UK版によるレヴュー。
人気映画の原作続編『Ready Player Two』は、AIが生成したような世界観に満ちている:ブックレヴュー
PHOTOGRAPH BY BALLANTINE BOOKS; WIRED UK

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名前や年齢、趣味など、読者となる子どもの特徴を細かく記入するタイプの児童書のシリーズがある。空いた部分に情報が入力されると読者自身がメインの登場人物となり、まるで自分のためにカスタマイズされたような物語を低価格で入手できるのだ。

映画『レディ・プレイヤー1』の原作『ゲームウォーズ(原題:Ready Player One)』の続編『Ready Player 2』は、それと似たような体験を提供している。

前作と同じく、今作も一部の人にしか理解できないポップカルチャーを詰め込んだ冗長な物語である。例えば、J.R.R.トールキンの『シルマリルの物語』プリンスの楽曲、ジョン・ヒューズ監督の映画などが、あちこちにまとまりなくちりばめられている。

そこにちりばめられているものを、読者は自分のお気に入りに置き換えて読むこともできる。すぐに交換してしまって、この本よりもっと短い、よりよい本を読むこともできるのだ。

原作への賛否

時系列でいうと、この続編は前作の直後から始まる。舞台は近未来。人口の大部分が貧困や犯罪、地球での生活の過酷さから逃れるために、「OASIS(オアシス)」という仮想世界で毎日ほとんどの時間を過ごしている世界だ。

主人公のウェイド・ワッツはちょっとオタクっぽいティーンエイジャーで、オハイオシティの外側にある「スタックパーク」に住んでいる。「スタックパーク」は、トレーラーやRVが積み重なってできたスラム街で、ウェイドはそこからオアシスに入り、創設者であるいまは亡き億万長者のジェームズ・ハリデーが仕かけた宝探しにすべての時間を費やしている。『チャーリーとチョコレート工場』に登場するウィリー・ウォンカよろしく、自らの遺産の後継者を探そうというわけだ。


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前作のプロットは予想の範囲内ではあった。

(以下、映画『レディ・プレイヤー1』と原作のネタバレに注意)

ウェイドはハリデーのイースターエッグを見つけ、女の子ともいい仲になってエンディングを迎える。2011年に発売された原作小説は、誰にでも開かれた「メタヴァース」(インターネットにおける仮想世界)の可能性を、ある程度は具体的に想像できるかたちで提供してくれたといえる。今日の仮想世界のデザイナーたちは、オアシスを自分たちの作品のインスピレーションのようなものだと語っている。

だが、原作小説の賛否は分かれた。この作品の特異な点は、ハリデーが小さなころからゲームや映画を愛していたことから、ハリデーの遺産を探して相続人になりたければ、1980年代のアーケードゲームに関して百科事典並みの知識や雑学が必要という点だった。

その結果『ゲームウォーズ』は、まだ観ていない映画の雑学ページを読まされているような気持ちにさせられる。もしくは、パーティーでいちばんつまらない人に捕まってしまい、テレビドラマ「ナイトライダー」に登場する人工知能「K.I.T.T」についての雑学を延々と聞かされ、助け船を求めて周囲の人に視線を送らねばならないような気分だ。

何にでもなれる可能性があったオアシスを、著者のアーネスト・クラインはオタクのための遊び場にしてしまった。まるで人間が2010年以降にポップカルチャーの形成を止め、ノスタルジーにふけって生きてきたような世界をつくり上げたのである。

新たな“宝探し”へ

当然のことながら、その試みは大成功した。なんといっても、みんな懐かしいものが大好きなのだ。のちに制作されたスティーヴン・スピルバーグ監督の映画版は、原作で使われていたテキストベースのゲームや8ビットのダンジョンクロウラーより、もっと広い層に理解してもらえるような題材を取り上げ、ポップ・カルチャーを織り込んだタペストリーのような作品に仕上がっていた。

著者のクラインは、2015年に『アルマダ』『エンダーのゲーム』をざっくりと再創造したような物語)を発表し、『ゲームウォーズ』のシリーズに戻ってきた。しかし、今作には前作と同じ欠点があり、前作のよい点はほとんど引き継がれていない。

ハリデーの仕掛けた宝探しに勝利したワットとその仲間たちは、オアシスを運営する巨大企業であるグレガリアス・シミュレーション・システムズの実権を握っていた。物語が始まってすぐに、ワットはハリデーが残したまた別の秘密を知ることになる。それはVRゴーグルと触覚スーツを使わずに、人々の脳をダイレクトに仮想空間につなげるテクノロジーだった。これは論理的に考えれば、ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)、つまりイーロン・マスクが多大な興味を寄せている「neural lace」(ニューラル・レース)である。


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大方の予想通り、この電脳デヴァイスが広く普及すると、物語は嫌なほうへと転がっていく。ワットと仲間たちは、自分たちがオアシスの内外で悪の人工知能と戦っていることに気づくのだ。

人工知能を止める唯一の方法は、これまたお察しの通りである。『指輪物語』や日本のアニメスタジオ、それにニッチすぎていったいどこが出典なのかもわからないようなことについて、詳細な知識を披露することだった。

AIで生成したかのような世界

その結果、前作とほとんど同じようなものができあがっている。しかも、2作目だからか余計にいらいらさせられる。Audibleで朗読を聴いていたところ、最初の5ページ目の段階でつらくなり、うめき声をもらしてしまったほどだ。

ワットがグレガリアス・シミュレーション・システムズの本部13階に案内され、スタッフと話すシーンでのことだ。ワットはこう発言する。

「もちろん、ここに本部を設置したのはハリデーに決まっているさ。ハリデーの好きだったテレビ番組に『マックス・ヘッドルーム』ってのがあったけど、そのなかの『ネットワーク23』の隠れた研究開発所が13階にあるんだよ。あと、『13F』ってタイトルの仮想空間についての古いSF映画もある。『マトリックス』や『イグジステンズ』のすぐあと、1999年に公開された映画なんだ」

同じようなやりとりが、このあと350ページほど無駄に続く。まるで誰かが文章生成AIツール「GPT-3」を使って、VH1チャンネル版のテレビ番組「I Love the 80’s」のパクリを書かせたように思えるほどだ(実際にAIを使って筋書きを予想した人まで現れたが、できあがった文章は気味が悪いほどよくハマっていた)。

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いわばこれは、ファン・フィクションなのである。ページの端を折って読み込んだ『ホビット』をもち、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主人公マーティ・マクフライに不健康なほど執着している10代の少年のための『トワイライト』なのだ。

前作との相似点

それが特に悪いというわけではない。そういうものが好きな人は、今作を楽しむことができるだろう。

ただ、前作とまるで同じようなものであることは否めない。映画のセリフの引用や、ジョン・ヒューズ監督の映画『フェリスはある朝突然に』を再現した場面の裏側に、ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)やVR、恒星間航行に関する興味深いアイデアが隠されてしまったのがもったいない(どれもクラインが愛するSF作品で探求され尽くされているのだが)。

プロット自体はそこまでひどくないので、映画化されたら良質な作品となるだろうし、おそらく実際に映画化されるだろう。映画になればヴィジュアルがあるので、引用も物語を邪魔せずわかりやすいものになるはずだ。

寛大な心で読めば、クリエイティヴ産業の“ぶっ壊れた”ような性質──つまり今日のポップ・カルチャーが過去に成功したコンテンツのリミックスか再創造、もしくは不必要な再始動であるという事実への批判として読むこともできるかもしれない。もし、この『Ready Player Two』自体が同じ穴にはまっていなければ、まさにそれを証明するような事例になったことだろう。

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TEXT BY AMIT KATWALA

TRANSLATION BY TAEKO ADACHI