「コカ·コーラシステム」で取り組むサステイナビリティ

コカ·コーラシステムは、「日本コカ・コーラ」と5つの「ボトラー社」などで構成されている。簡単に言うと、販売されている各種製品の“IP”をもち、新製品の企画開発と原液の製造をするのが日本コカ·コーラであり、日本コカ·コーラから“宝物”である「コカ·コーラ」や「綾鷹」などブランドの原液を仕入れ、缶やペットボトルにする製造部分と消費者への販売、さらに使用済み缶・ペットボトル回収、リサイクルまでを担うのがボトラー社だというわけだ。

日々、わたしたちが手にするコカ·コーラ社のペットボトルはボトラー各社が製造したものであり、さらにボトラー各社が地域に密着したリサイクル活動にも取り組んでいることは、意外と知られていない。

ボトラー各社のなかでも国内最大規模の1都2府35県を担うのが、コカ·コーラ ボトラーズジャパンだ。17年にコカ·コーライーストジャパンとコカ·コーラウエストが統合し、国内最大のボトラーとなったことで、日本コカ·コーラと「ワンボイス」で目指すべきサステイナビリティの方向性を策定することができるようになった。

今回はこのコカ·コーラ ボトラーズジャパンでCSV推進部を統括するレイモンド・シェルトンと、実働部隊としてその実装に尽力するサステナブルストラテジー部の近藤彩子に、自ら“高い目標”を掲げる同社の環境施策とその達成への道筋について話を訊いた。

100%リサイクルペットボトルが使用されている同社製造・販売の「い·ろ·は·す 天然水」。20年4月から販売開始された、より環境に配慮された「い·ろ·は·す 天然水ラベルレス」の製品(左)は、現在ケース販売のみとなっており、通常ラベルに記載される原材料名などの法定表示は外装ダンボールに記載することで、ラベルレス製品としての販売が可能となっている。PHOTOGRAPH BY TOSHIKI YASHIRO

「い·ろ·は·す」は100%リサイクルペットボトル

「街の自動販売機を利用したことがない」という人はどれだけいるのだろう。おそらく圧倒的に少ないはずだ。

街にあるコカ·コーラ社の自動販売機横にはリサイクルボックスがあり、人々はそこに飲み終わったペットボトルや缶を捨てる。このリサイクルボックスはコカ·コーラ ボトラーズジャパンが回収し、捨てた空容器がリサイクルされていることを「なんとなく」知っている人も多いだろう。

現在、ペットボトルは「100%」リサイクルが可能だ。使用済みペットボトルを原料化し、新たな飲料用ペットボトルに再利用することを「ボトルtoボトル」という。例えば、「い·ろ·は·す 天然水」は以前ボトルの30%にリサイクルペット素材を使用していたが、20年3月からは100%リサイクル素材となった。

シェルトンは「新しいペットボトルは石油からつくられますが、『ボトルtoボトル』では新たな石油を使う必要がありません。このプロセスによってきれいな循環をつくることができます」と語る。

「い・ろ・は・す 天然水」の場合、「ボトルtoボトル」により、石油から新規に製造されるプラスチックの使用量は、年間で「およそ自動車4,000台分の重さ相当」削減できる。CO2排出量は、石油由来100%のペットボトルと比較し、1本あたり49%削減可能になるのだ。

「容器の2030年ビジョン」が、「設計」「回収」「パートナー」によっていかに実現されようとしているのか。動画内ではその実現までの道筋が解説されている。

課題は利用者への認知向上

近藤にリサイクルのプロセスを尋ねると次のように教えてくれた。

「みなさん、自宅でペットボトル飲料を飲んだあとは、リサイクル用に分別して自治体のゴミ収集に出していると思います。そこから先は、回収業者が工場へ運び、集めたものを立方体に圧縮し、それを再生施設で原料に変えています。飲料メーカーだけではなくさまざまなプレイヤーが間に入り、再生のペットボトルとなってみなさんのもとに戻ってくるわけです。そのプロセスはわれわれ飲料メーカーだけでは完結できず、多くの方々の協力があってこそ実現できるものです」

続けてシェルトンは「みなさん、自動販売機の横にあるリサイクルボックスに捨てるでしょう?」と問いかける。

「実際にはゴミ箱だと思って、違うゴミを入れてしまう人も多いと思います。でも、純粋なPET(ポリエチレンテレフタラート)でないとリサイクルのプロセスに問題を起こしてしまいます。回収後、実は手作業で仕分けしているんです。ですから、違うゴミは捨てないで欲しいですね。きれいなペットボトルだけが集まれば、より効率的な循環を促進することができます。消費者のみなさまに知っていいただくことがこれからの課題です」

コカ·コーラ ボトラーズジャパンの執行役員兼IR&コーポレートコミュニケーション本部長を務めるレイモンド・シェルトン。飲料の原液を製造販売する日本コカ·コーラ株式会社と連携して実現を目指す「容器の2030年ビジョン」など、同社のCSVを統括している。PHOTOGRAPH BY TOSHIKI YASHIRO

日本独自の目標設定

もちろん、リサイクルボックスにほかのゴミを捨てるのはご法度。理想の状態は、「ラベルを外し、中もきれいに洗って捨てること」だが、屋外などでは難しい。

近藤はこのように啓蒙を促す。「自動販売機横のリサイクルボックスには、現状ペットボトル・缶以外のごみが約30%入っています。また、飲み残しがあったり、ほかのゴミが入ってたりしているペットボトルだと、再生可能な原料は減ってしまう。これが難しいところです。『リサイクルボックスにごみを入れない』という行動が、新たな石油を必要としない行動やCO2排出が不要なアクションに繋がっていくと思います」

とはいえ、現状、日本のペットボトルの回収率は諸外国に比べて非常に高い。シェルトンは、「投入口の形状に工夫を施すなどリサイクルボックスの改良はされているものの、やはり消費者にペットボトルはゴミではなく“資源”だと理解してもらう必要がある」と念押ししながらも、「きちんと取り組むことで、日本のリーダーシップを世界に見せることができる」と期待を寄せる。

そして、期待値が高い日本だからこそ、グローバルの基準よりも厳しい日本独特の目標を据えているのだ。

米国のザ コカ・コーラ カンパニーでは、18年に「World Without Waste(廃棄物ゼロ社会)」を目指すグローバルな目標を掲げている。同年、日本でもこれまでの知見に基づき30年までにすべてのペットボトルをリサイクルPET樹脂または植物由来PET樹脂に切り替えることなどを目指す「容器の2030年ビジョン」という新たな環境目標を策定した。そして翌年の19年には目標を「前倒し」し、よりハードルの高い目標値に更新した。

なぜ、前倒しをしたのか。「World Without Waste(廃棄物ゼロ社会)」というグローバルな目標に対し、日本独自の目標設定についてシェルトンはこのように話す。

「22年までには50%リサイクル資材、2030年には90%リサイクル資材にし、残りの10%は少なくとも石油からではなく植物由来からのペットボトル資材をつくる。そうすれば2030年には100%サステイナブルなペットボトルをつくることになります。これは厳しい目標ではありますが、実現可能な目標として設定しています」

「容器の2030年ビジョン」は、「設計」「回収」「パートナー」という3つの柱で構成される。地域社会のパートナーと協働しながら、3つサークルを循環させていくというもの。いかにこのサークルが円滑に回っていくか。その実態を少しひも解きたい。

コカ·コーラ ボトラーズジャパン サステナブルストラテジー部の近藤彩子。廃棄物ゼロ社会の実装に向けて回収業者や再生施設など、さまざまなパートナーと連携しながら環境施策を推し進めている。PHOTOGRAPH BY TOSHIKI YASHIRO

地域で取り組むサステイナブル

街のリサイクルボックスはもちろん、家庭でのゴミ出しももちろん重要だ。20年10月、コカ·コーラ ボトラーズジャパンは、東京都東大和市と「地域活性化包括連携協定」を締結した。これには「ボトルtoボトル」の促進を目的に、「PETボトル自動回収機」を市内に設置し、ペットボトル回収事業に協働で取り組むというものが含まれる。

このプロジェクトについて近藤は「大きな目的は資源循環です。東大和市はリサイクル率を上げ、資源循環をいかにつくるかが大命題でした。お互いの思いが合致してスタートしたプロジェクトです」とし、「経済的な利益だけでなく、社会的側面もしっかり両輪でやっていく必要がある。国や自治体などのステークホルダーも一緒に目標に向かっていかなければいけません」と語る。

「PETボトル自動回収機」は、飲み残しやラベルの有無を自動でチェックし、OKとなれば空容器を取り込んで回収する。週1回、月1回など資源ゴミの回収頻度が自治体によって異なるなかで、「PETボトル自動回収機」を導入することで、定期的に“質の良い”ペットボトルを回収でき「ボトルtoボトル」がより進めやすくなるのだ。

近藤はこう続けた。「ペットボトルのゴミの約半分は家庭から、残りの半分はスーパーなどに置いてあるリサイクルボックスから回収されます。自治体のインフラで回収する割合は大きいですが、住民はいつでも捨てられるわけではないので、捨てる場所を提供して回収すれば確実に循環できると考えました。飲料メーカーがペットボトルとして再生するという責任あるモデルにするためです」

同様の取り組みは、ドラッグストアチェーンのウエルシアともおこなわれている。ウエルシアの一部店頭にペットボトルのリサイクルボックスを配置することで、買い物客から高質なペットボトルを回収するのが狙いだ。

コカ·コーラ ボトラーズジャパンの社員は、全国に2万人近く在籍する。近藤が「“地域に根ざした会社”として活動をしなければなりません」と言うように、自治体や小売業との取り組みからは、同社の地域の“すぐ近くにある”会社としての環境活動が垣間見える。

さらに、ケミカルリサイクル(使用済み資源を化学反応で組成変換させてリサイクルすること)によって使用済みペットボトルから再生ペット原料を製造する台湾のPET樹脂およびポリエステル繊維メーカー「遠東新世紀」との共同プロジェクトにも着手し、数年内の商業化を目指している。20年11月にはその再生PET原料を使った製品が一部地域でテスト販売されるなど、新たな技術にも挑戦中だ。

環境施策を統括するシェルトンとその実装を担う近藤のチームの連携によって「容器の2030年ビジョン」は着実に目標達成に近づいている。米国から日本に来て約15年というシェルトンは流暢な日本語で、時折ジョークを交えながらインタヴューに答えてくれた。PHOTOGRAPH BY TOSHIKI YASHIRO

未来のヴィジョンを考える

最後に、30年まで具体的な目標数値とともに施策を掲げるふたりに「廃棄のない未来」は訪れるのか、それはどんな未来なのかを尋ねてみた。

シェルトンは「“World Without Waste”という考えがとても大事。われわれ、コカ·コーラシステムにはWasteのない世界を実現する力があると思いますし、その責任を強く感じます」と語った。

近藤は「廃棄のない未来がきたら、地球という大きなひとつのエコシステムがつくれると思います。消費者レヴェルも企業も国も、それぞれが一体となり、新たな資源を搾取することもなく、CO2の削減につながっていく。海がきれいになり、生物の生態系も維持されていく。地球自体が持続可能な社会を築くことで、地に足を着けて生きていける。明るい未来になると思います」と語る。

持続可能な未来のために、ペットボトルという、わたしたちにとって身近なものに目を向け、意識を変えていく。技術はすでにある。それを十分に発揮させるためには利用への認知向上が不可欠だ。まずは一歩。明日からでもできる一歩から始めてほしい。

[ コカ·コーラ ボトラーズジャパン株式会社 ]