ダニエル・オーバーハウス

『WIRED』US版のスタッフライターで、宇宙探査やエネルギーの未来を取材している。著書に『Extraterrestrial Languages』(MIT Press、2019)。「Motherboard」のニュースエディターも経験。

米ネヴァダ州スパークスにあるテスラの巨大なバッテリー工場、通称「ギガファクトリー」では毎日、何百万ものリチウムイオンバッテリーが生産されている。テスラの車両に搭載されるバッテリーパックには、同工場でパナソニックが製造した数千個のバッテリーセルが束になって詰め込まれているのだ。

とはいえ、すべてのセルが車両搭載に適しているわけではない。パナソニックは品質認定試験に合格しなかったトラック数台分のセルを、クルマで南へ約30分ほどの距離にあるカーソンシティの施設へ送り出している。そこは、ギガファクトリーとは対照的な施設になることを目指して、2017年に創業したRedwood Materials(レッドウッド・マテリアルズ)の本拠地だ。この施設でバッテリーはリサイクル処理され、新しいセルの原材料へと生まれ変わる。

EVが抱える時限爆弾

実際のところ、電気自動車(EV)から出る大量の廃棄バッテリーをどうリサイクルするかという問題は、まだ起きていないと言ってもいい。だが、すでにこの問題の解決を競い合うスタートアップは増えており、Redwood Materialsもそのひとつである。

EVの需要拡大により、世界のリチウムイオンの生産能力はこの10年間で10倍になった。さらに、初期に生産されたEVはすでに寿命を迎え始めている。つまり、これから大量の使用済みバッテリーの廃棄が始まるということだ。今後EVがさらに増えていくにつれ、廃棄量はますます増加するだろう。国際エネルギー機関(IEA)は今後10年間でEVの台数が800パーセント増加すると予測しているが、その1台1台に数千のバッテリーセルが搭載されているのだ。

EV革命には、電子ごみ(e-waste)の爆発的増加を将来的にもたらす時限爆弾を生み出したという負の側面がある。その爆発を回避する唯一の方法は、リチウムイオンのリサイクル方法を見つけ出すことだ。

そして、Redwood Materialsの創業者兼最高経営責任者(CEO)であるJ.B.ストラウベルは、この問題をほかの誰よりもよく理解している。何と言っても、彼はこの問題の発生において大きな役割を果たした人物なのだ。

ストラウベルはテスラの共同創業者であり、2019年まで同社の最高技術責任者(CTO)を務めていた。彼の在籍期間で、テスラは従業員を片手で数えられるほどの寄せ集めのスタートアップから、世界で最も価値のある自動車メーカーへと成長を果たしている。この過程で、テスラは世界最大のバッテリーメーカーのひとつにもなったのだ。

とはいえ、バッテリー自体は問題ではないとストラウベルは話す。「バッテリーを回収したり再利用したりできる素材と考えれば、大きなチャンスにつながります」と、彼は言う。「流通しているバッテリーの量を見れば、ゆくゆくは再製造のためのエコシステムを構築しなければならないことは明らかなのです」

バッテリーのリサイクルが進まなかった理由

リチウムイオンバッテリーをリサイクルする方法は主にふたつある。最も一般的な手法は「乾式製錬(Pyrometallurgy)」と呼ばれるもので、燃焼によって不要な有機材料やプラスティックを除去するものだ。ただし、この手法で手に入るのはリサイクル前の材料のほんの一部で、通常は集電体の銅とカソード(正極)のニッケルまたはコバルトのみである。また、乾式製錬では「溶融製錬(Smelting)」というプロセスがとられることが一般的だが、化石燃料を動力源とする炉を使用するので環境に優しくない。さらに、この方法では多くのアルミニウムとリチウムが失われてしまうという欠点もある。

とはいえ、乾式製錬はシンプルな手法だ。鉱業で採掘された鉱石を処理する既存の製錬工場なら、すでにバッテリーを処理できる。米国でリサイクルされるリチウムイオンバッテリーは、使用済みセル全体のわずか5パーセントに過ぎないが、そのほとんどは製錬炉へ送られているのだ。

もうひとつの手法は「湿式製錬(Hydrometallurgy)」というものだ。この手法では通常「浸出(Leaching)」というプロセスによって、リチウムイオンのセルを強酸に浸して金属を溶かし出して抽出する。