米司法省がグーグルの提訴に踏み切った理由と、見え隠れする政治的な動機

グーグルが検索サーヴィスにおいて競争を阻害しているとして、反トラスト法(独占禁止法)違反で米国の司法省が提訴した。今回の一件は、いったい何が具体的に問題視されたのか。裏側には政治的な動機の存在も指摘されている。
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ALBERTO PEZZALI/NURPHOTO/GETTY IMAGES

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この1年の大半においてテック業界では、長らく噂されてきたグーグルの反トラスト法(独占禁止法)違反について、米司法省が実際にどう動くのかについて関心が寄せられてきた。そして今回、その答えが出た。司法省はグーグルを10月20日(米国時間)に提訴し、反トラスト法違反の事例としては1990年代に米国がマイクロソフトを提訴して以来となる、最も重要な訴訟の引き金を引いたのである。

政府によると今回の提訴の核心は、グーグルが排他的な契約によって他社のウェブブラウザーやデヴァイスにおいて標準の検索エンジンになっている点だ。司法省は、こうした手法がグーグルを「駆け出しのスタートアップ」から「インターネットの独占的なゲートキーパー」へと変貌する流れを後押しすると同時に、ライヴァルになろうとする企業の進路を不当に妨害したと主張している。

“標準”の検索エンジンという地位の裏側

つまり、こういうことだ。最初の段階でグーグルは、検索エンジンやアプリへのアクセスをコントロールする企業、つまりデヴァイスメーカーやブラウザーメーカー、通信キャリアと契約する。ここでアップルの事例を挙げよう。

IDCによるとアップルは全世界のスマートフォンの約15パーセントのシェアを保有しており、米国の携帯電話市場の大部分を占めている。この端末において標準の検索エンジンにしてもらうために、グーグルは毎年80億ドル(約8,400億円)から120億ドル(1兆2,500億円)とも推定される金額を支払っている。訴状によると、これはアップルの純利益の約15~20パーセントにも相当する。

なお、グーグルのOS「Android」を採用したデヴァイスは世界市場の大部分を占めるが、これらのデヴァイスにおいてグーグルは“アメ”と“ムチ”の両方を用いている。Androidを採用したいメーカーは、標準のホーム画面にGoogleアプリを最初からインストールしておき、「Google 検索」を標準化しておかなければならない。Androidはアップル以外の端末メーカーが利用できる事実上唯一のOSなので、ここにはほとんど選択の余地がない。

しかし、その裏には“アメ”がある。メーカーはグーグルの収益から、分け前の一部を得ることができるのである。司法省によると、人々が標準の検索エンジンを変更することはほとんどなく、こうしたやり方はほかの検索エンジンという選択肢を効果的に締め出すものだという。このためグーグルのライヴァルになろうとする企業は、グーグルの検索結果に対抗するためのデータ構築に必要なユーザー数を得られなくなってしまう。

そして、ふたつ目の段階が収益だ。支配的な位置が保証されてライヴァルが締め出されている状況にあって、グーグルは一般的な検索広告に毎年費やされる数百億ドルをほぼ完全に独占している。そのおかげで、排他的な契約にかかるコストより多くの収入を得ることができる。

3つ目の段階は分配である。こうして巨額の利益を得られることで、グーグルはアップルやAndroid端末のメーカーに収益を分配し、標準の検索エンジンという地位を継続的に得られる。その結果、一般的な検索クエリの60パーセントはグーグルが排他的な契約を結ぶプラットフォームにおけるものになり、さらに20パーセントがグーグルの所有するブラウザー(主に「Chrome」)で実行されるのである。

マイクロソフトの案件とそっくりな訴訟

今回の司法省による提訴においては、グーグルがさらにデジタル広告全般においても支配的なシェアをもつことや、同社が関連性の高い検索結果ではなくグーグルにとっての利益につながる検索結果にユーザーを導く傾向を強めつつあるといった、グーグルに対するその他の疑惑は取り上げられていない。

消費者保護団体のOpen Markets Instituteの執行戦略担当ディレクターで反トラスト法の専門家としての著書もあるサリー・ハバードによると、これはおそらく司法省が現在の反トラスト法下で違法性の証明が最も簡単な行為に焦点を当ててきたからであろうという。勝訴するには、政府はグーグルが独占力をもっていること、排他的な契約によって競争を抑制していることを証明できればいいからだ。

「おそらく今回の案件は、反トラスト法違反のなかでは非常に簡単なものと言えるでしょう」と。ハバードは指摘する。「なぜなら、グーグルは市場において明らかに独占力をもっており、その市場シェアは信じられないほど高く、競争の排除が排他的な契約によってなされているからです」

彼女は今回の訴訟を、あのマイクロソフトの訴訟になぞらえている。マイクロソフトがPCメーカーに対してネットスケープのブラウザーの代わりにマイクロソフトのブラウザーをインストールさせたことに対して、政府が異議を唱えた案件だ。彼女は「これは米国政府対マイクロソフトの訴訟にそっくりです」と言う。

検索の選択肢はGoogleだけではない?

これに対してグーグルは異議を唱えている。「司法省の申し立ては反トラスト法に関するあやふやな主張に基づくもので、人々がGoogle検索を簡単に利用できるようにしようとするわたしたちの努力を批判している」と、グーグルの最高法務責任者であるケント・ウォーカーはブログ記事で指摘している。

グーグルは同社の“排他的な契約”について、実際には他社を排除していないのだと主張する。人々が検索エンジンの選択において標準の設定にこだわる傾向があるという前提を否定し、標準の検索エンジンの変更は容易である点を指摘しているのだ。さらにグーグルの広報担当者は電話での取材において、アップルのブラウザー「Safari」で検索の標準設定がGoogle検索になっているのは、「それが最高の検索エンジンだから」と示唆するアップル幹部のコメントを引用している。

この主張における問題点は、アップルのデヴァイスやSafariなどで標準の検索エンジンになるために、グーグルが数十億ドルを費やしている点である。標準であることは重要ではなく、グーグルが消費者やメーカーからいちばんの選択肢として選ばれているだけだとしたら、なぜそこまでのコストを費やす必要があるのだろうか。

だからこそ、同社はふたつ目の主張をするのかもしれない。その主張とは、確かに自社製品の宣伝のために金を払ってはいるが、人々が検索に使うのは検索エンジンだけではないので、そもそも検索を独占してはいないというものである。

グーグルによると、同社はアマゾンや旅行サイトの「KAYAK」、レヴューサイトの「Yelp」のほか、オンラインでの検索に利用できるあらゆるサイトとの間で激しい競争にさらされているという。この主張が法廷で優勢になり、グーグルが独占力をもっていないことに判事が同意すれば、排他的な契約は「違法」とはされないことになる。

政治的な動機の存在

議論がどちらに転ぶのか、しばらくははっきりしないだろう。この規模の裁判においては、特にグーグルには実質的に無限ともいえる法的なリソースがある。それを考慮すれば、決着するまで何年もかかるはずである。だからこそ、グーグルが外部からどれだけの圧力に直面しているのかを知ることが重要になってくる。

例えば、すでに米国の11州の司法当局が司法省の訴訟に参加した一方で、50州すべてが独自の反トラスト法違反調査に取り組んでいる。そこではグーグルによるデジタル広告の独占に手が及ぶ可能性もある。一方、下院の反トラスト小委員会は先日、テック分野の競争問題に関する大規模な調査を終了し、反トラスト法を強化する必要性について超党派で合意した。

司法省のほうも、これで終わりというわけではない。メディアとのオンライン会見においてジェフリー・ローゼン司法副長官は、グーグルに対する訴訟を「マイルストーンではあるが、これでひと段落したわけではない」と指摘した上で、同省がグーグルやほかのテック企業に対してさらなる行動を起こす可能性について示唆している。

なお、反トラスト法違反の訴訟としては珍しいことに、この件については政治的な動機に関する疑念がもたれている。別の文脈においてトランプ大統領の忠実なしもべであることが証明されているウィリアム・バー司法長官が、司法省キャリアの反トラスト法専門弁護士による一部の反対を押し切り、この秋に提訴に踏み切るよう同省に圧力をかけたと報じられているのだ。

このことが、グーグルやほかのプラットフォームが反共和党で偏向しているというトランプ支持者の声高な主張と相まって、バー長官が政治的意図を追求しているのではないかの疑惑を助長しているのである。なにより今回の提訴に参加した州の司法長官は、全員が共和党員だ。

一方で、巨大テック企業の力を抑制するための反トラスト法強化という考えは、現在のワシントンD.C.において超党派的な合意が可能となる数少ない分野のひとつである。そして、左派のエリザベス・ウォーレンや右派のジョシュ・ホーリーなども支持している。

司法省は、この件が政治的に動機づけられたものであることや、性急なものであることを否定している。ローゼンは「テック業界では、反トラスト法の執行当局は迅速に動かねばなりません」と言う。そうしないと、「イノヴェイションの次の波を逃す恐れがあります。そうなれば、米国人は次のグーグルを見ることができなくなるかもしれません」と、彼は言う。

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TEXT BY GILAD EDELMAN