今度こそ実現する? イーロン・マスクが宣言した「300万円以下のEV」というテスラの野望

テスラがバッテリーに関する発表会「バッテリーデー」を開催し、3年後に「25,000ドル(約260万円)の電気自動車」を販売する計画についてイーロン・マスクが語った。マスクは18年のインタヴューで、テスラは3年以内に25,000ドルのEVを本格展開できると語っていた。つまり計画は先送りされたわけだが、その実現は今度こそ可能なのか?
Tesla Model Y
ATTILA KISBENEDEK/AFP/AFLO

カリフォルニア州フリーモントの駐車場に200人以上のテスラの株主(ますます裕福になる人々だ)を集め、最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスクを立たせてテスラの今後のバッテリー技術について話をさせたら、いったい何が起きるだろうか。株主たちは、けたたましくクラクションを鳴らすことだろう。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)のおかげで珍しい形式になった今回の株主総会には、拍手(あるいはクラクション)を誘ういくつかのニュースがあった。ひとつは、テスラが自社バッテリーの設計と生産に着手したとマスクが語ったこと。もうひとつは、テスラが「いまから3年ほどで」25,000ドル(約260万円)の電気自動車EV)を生産するとマスクが宣言したというニュースだ。そのクルマは自律走行車になるとも、マスクは主張している。

先延ばしされた“約束”

マスクの野心的な発表が、耳をつんざくほどの反応を株主から引き出したことも無理はない。EVにおいて、搭載されるバッテリーの設計と製造が最も重要な要素であることは、まず間違いないのだから。バッテリーの性能が、1回の充電でクルマがどのくらいの距離を走れるか、どのくらい速く充電できるか、そしてどのくらい素速く加速できるかを決定する。

現在、テスラの「モデル3」のコストのほぼ3分の1を占めているバッテリーは、このクルマの最も高価な部品だ。バッテリーに使用する化学物質を高度なものにしたり、サプライチェーンを合理化したりすることでバッテリーのコストを下げられれば、クルマのコストも下がる。EVのコストが下がれば、誰もが買いやすいクルマにすることができる。


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テスラの最も低価格なクルマであるモデル3は、米国では補助金の適用前で38,000ドル(日本では511万円)からとなっている。この価格がモデル3の魅力の足かせになっているのだと、マスクは主張する。「テスラのクルマを欲しがっている人はたくさんいますが、買えるだけのお金がないのです」と、彼は言う。「Bloomberg New Energy Finance」の調査によると、昨年米国で販売されたクルマのうち、EVは2パーセントに満たなかったという。

テスラの約束には、いつものただし書きがついている。マスクが控えめな約束をして約束以上の結果を出したことは、これまで一度もない。彼は18年のインタヴューで、テスラは3年以内に25,000ドルのEVを本格展開できると語っていた。そして彼は9月22日(米国時間)の発表で、その期限を2年先延ばしにした。マスクによると、実現が困難な目標だからであるという。

進行するバッテリーのコスト削減

それでも、テスラのバッテリープロジェクトは進行しているようだ。テスラがフリーモント工場に試作バッテリー製造施設を建設したという噂が事実であることを、マスクは認めている。同社はまた、北米のリチウム鉱山とカソード工場の建造も計画しており、これはバッテリー材料の移送を80パーセント削減することになる。テスラによると、生産性の向上により、全体でバッテリー1キロワット時(kWh)当たりのコストが56パーセント削減されるという。

EVビジネスのインフラを改善することは、ガソリンを大量に消費するライヴァルと競合できるクルマにする上で鍵となる。テスラがバッテリーの材料コストの削減を試みたとしても「結局のところ、コストの削減には限界があります」と、Bloomberg New Energy Financeでエネルギー貯蔵研究を率いるアナリストのジェームズ・フリスは指摘する。「最後にとれる手段のひとつは、サプライチェーン内のマージンの一部を削減することです」

テスラはパナソニック、LG化学、そして最近では中国メーカーの寧徳時代新能源科技(CATL)とバッテリー生産で提携してきた。しかし、バッテリー製造過程のより多くの部分をコントロールするようになれば、テスラはサプライチェーンでもさらにコストを削減できるだろう。

テスラの取り組みが示していること

とはいえ、今回のバッテリーに関するプレゼンテーションは曖昧な言葉に満ちており、言及したテクノロジーの実装には何年もかかる可能性が高いとマスクは繰り返し警告している。テスラはバッテリーの最新の飛躍的進歩について詳しく語ったが、試作品を見せることはなかった。

テスラがときには当局とひと悶着を起こすきっかけにもなってきた過去の仰々しいプレゼンテーションや未来予測とは対照的に、今回はやや抑え気味になっていることに参加者たちは気づいた。結果、テスラ株は時間外取引で7パーセント近く下落している。

自社バッテリーに関する取り組みは、テスラがEVに関して楽観的でありながら、バッテリーは将来的に供給困難に陥る可能性があると見ていることの証だろう。例えばマスクはTwitterで、テスラはパナソニックと運営しているネヴァダ州のギガファクトリーを含め、パートナー企業と提携を続けることを強調している。

「EVの世界的な需要予測は、世界のサプライチェーンにおいて極めて大量の需要が生じることを示唆しており、いよいよ競争が激化するでしょうね」と、カリフォルニア大学デイヴィス校の土木環境工学教授で、産業が環境に与える影響を研究しているアリッサ・ケンダルは指摘する。「テスラがなぜ神経質になっているのか、なぜ自社のバッテリー技術を後押ししたがっているのか理解できます」

※『WIRED』によるテスラの関連記事はこちら。電気自動車(EV)の関連記事はこちら


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イーロン博士とマスク氏の“地獄”のテスラ工場(前篇)


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TEXT BY AARIAN MARSHALL