米国では民間の防犯カメラが、警察による“監視”にも使われ始めた

米国の個人や企業が設置している防犯カメラを、警察当局による“監視”にも使う動きが加速している。一部の都市では民間の監視カメラをネットワーク化し、ライヴ配信による“仮想パトロール”を可能にする仕組みの構築も始まった。一方で一連の動きに対し、当局の権限強化や人種差別につながる危険性も指摘されている。
米国では民間の防犯カメラが、警察による“監視”にも使われ始めた
JAMES LEYNSE/CORBIS/GETTY IMAGES

米国内には推定5,000万台の防犯カメラがある。1人当たりの台数では中国に匹敵する数だ。大多数は個人や企業の所有であり、政府機関ではない。だが、警察の多くはカメラを管理する民間企業と提携しており、映像を入手できる。人権活動家らはこの点を懸念している。

ニューアーク、ボルティモア、サンフランシスコ、デトロイトの各都市には、いずれも官民連携による監視カメラのシステムがある。ただし、それぞれの都市で仕組みは異なる。ニューアークの場合は住民に積極的に防犯カメラの映像を確認してもらい、犯罪行為があれば警察に報告してほしいと呼びかけている。

警察は、暴力犯罪の問題を抱えていた地域の犯罪件数が防犯カメラのおかげで減ったとして、その効果を高く評価している。ボルティモアのある警官は同市の監視カメラシステムを、スパイダーマンが危険を察知する能力「スパイダーセンス」にたとえたほどだ。

監視カメラで“遠隔パトロール”が可能に

ところが、監視カメラはひとたび設置されると、多くの場合にデモ活動の追跡など別の目的にも使われるようになると、人権活動家らは警鐘を鳴らす。正当な根拠のない監視行為をするシステムになりかねず、とりわけ非白人層にとってその影響は大きいという。

こうしたなかデトロイト市は2016年、驚くべき傾向を発見した。当時、デトロイトでは犯罪件数が増加していたが、なかでもガソリンスタンド周辺で急速に増えていたことが判明したのだ。夜10時から朝8時までの間に市内で発生した暴力犯罪のうち、4件に1件がガソリンスタンドから150m以内で起きていた。

そこで警察は、まず8カ所のガソリンスタンドに協力を依頼して監視カメラを設置し、リアルタイムの映像を警察署へ直接配信する体制をとった。ライヴ配信することにより素早い対応が可能になったほか、深夜の時間帯に署内で映像を確認する「ヴァーチャルパトロール」が可能になった。

この試験運用後、デトロイト市警察は監視カメラのネットワークを拡大し、「プロジェクト・グリーンライト」と名付けた。立ち上げから4年になる現在、市全域で店舗など500カ所に700台のカメラが導入されるまでになっている。

顔認識による誤認逮捕という問題

しかし、導入拡大を受け、警察が監視カメラをガソリンスタンドのパトロール以上の目的に使っている、と懸念する声も上がっている。デトロイト市長のマイク・ダガンは昨年、信号機にもカメラを搭載する計画を発表しており、実現すれば市内の監視カメラは1,000台を超える。

カメラの購入と設置にかかる費用は、設置場所となる店舗などが負担する。だがデトロイト市警がプロジェクトのシステムに投じた費用は約800万ドル(約8億5,000万円)とされる。市が所有するカメラに加え、業者との各種契約、映像のモニタリングや警察との連携を担う「リアルタイム犯罪センター」の運営にかかる費用などが含まれる。

警察は顔認識ソフトを使い、防犯カメラの画像を解析できる。だが、これは相当にリスクの高いやり方だ。デトロイト市警は今年1月、プロジェクト・グリーンライトのカメラ映像と市郊外に住む黒人男性ロバート・ウィリアムズの写真が顔認識ソフトの判定で「一致した」として、誤認逮捕の問題を起こしている。

「まず、このプロジェクトと顔認識システムに予算をかけるのをやめてほしいというのが、わたしたちの訴えです」と、人権活動団体Detroit Will Breatheのロイド・シンプソンは言う。

監視カメラと人種差別の関係

プロジェクト・グリーンライトに費やしたリソースはほかに有効な使い道があるはずだ、とシンプソンは指摘する。監視カメラの映像が当初の目的外にも使われるようになって焦点がずれ、そもそもこうした監視が犯罪抑制に効果的なのかという問題は置き去りになっているからだ。

デトロイト市警は4月、新型コロナウイルスの感染拡大抑制策の一環として、市民がソーシャル・ディスタンシング(社会的な距離の確保)を守っているか監視する目的でプロジェクト・グリーンライトのカメラ映像を使用した。警官は犯罪予測に使われるアルゴリズムである「リスク・テライン・モデリング」と呼ばれる手法と防犯カメラの映像とを組み合わせ、ヴァーチャルパトロールで違反者35人に罰金を科している。

「そもそも監視カメラの設置場所と、黒人コミュニティに対する社会の見方は切り離すことができません」と、非営利の法律事務所Detroit Justice Centerでシニア・スタッフ弁護士を務めるエリック・ウィリアムズは指摘する。「監視カメラを設置する行為は、この国の刑事司法制度に根強く広がる人種差別の影響と無縁ではありません」

ウィリアムズはデトロイトの人口の8割以上を黒人が占めるとしたうえで、こう付け加える。「いまの監視技術には、肌の色の濃い人、とりわけ非白人女性を正確に認識できるかといった点で欠陥があることが、証拠からも明らかになっています」

なお、デトロイト市警にコメントを求めたが、回答はなかった。

民間カメラの利用を強化したサンフランシスコ

警察による監視に力を入れるデトロイトの取り組みと対照的なのが、サンフランシスコだ。2012年以来、暗号通貨(仮想通貨、暗号資産)業界の“大物”であるクリス・ラーセンが40万ドル(約4,200万円)以上を投じ、市中心部ユニオンスクエアのビジネス改善地区(BID)を含む市内各地に1,000台以上の防犯カメラの導入を進めてきた。サンフランシスコ市警察は、カメラとその所有者、設置場所に関するデータベースを管理し、犯罪の疑いがあれば映像の確認を求める。

デトロイトと違うのは、要望を出せば誰でも映像を見ることができる点だ。被告側の弁護士でも、映画製作者でも構わない。警察も常にカメラにアクセスできるわけではなく、映像を確認したい場合は要請を出す。デトロイトでは警察が許可した監視カメラを導入する店舗などが自らの負担で設置するが、サンフランシスコでは設置する側は費用の負担なくカメラを使用できる。

それでも、プライヴァシー保護の観点からこの取り組みを警戒する声もある。5月末から6月初旬にかけて、サンフランシスコ市内各地でジョージ・フロイドの死に抗議するデモが実施され、のべ10,000人が参加した。

BIDの監視カメラシステムは建物やクルマへの破壊行為を防ぐ狙いで導入されたものだが、サンフランシスコ市警はデモに際し、略奪防止の目的でより広範囲に活用した。破壊行為を知らせる通報に個別に対応するよりも、警察が監視カメラのネットワーク全体にリアルタイムでアクセスできるようにし、地域のあらゆる人の映像を確認できる体制をとったのだ。

電子フロンティア財団(EFF)が公開したメールによると、サンフランシスコ市警は当初、BIDの防犯カメラ映像にリアルタイムでアクセスできる権限を2日間認めてほしいと要請している。その後2度にわたって延長し、アクセス権限は計9日間に及んだ。

「警察は可能な限りのデモを、できる限り監視したかったわけです」と、EFFの政策アナリストであるマシュー・ガリグリアは言う。「集約化されたカメラのネットワークがあって令状なしで警察が簡単にアクセスできるとなれば、名称は違っても事実上は警察による監視カメラネットワークと同じです」

監視カメラの映像はナンバープレート読み取りソフトなど、別のシステムとも連携できると、EFFの研究者らは指摘する。

テクノロジーと法とのあつれき

ユニオンスクエアBIDのディレクターに宛てたメールで警官は、デモの「状況把握」を理由に監視カメラをリアルタイムで確認する権限を求めている。市の公選弁護人が『WIRED』US版に語ったところによると、サンフランシスコ市警はデモ参加者を収監したり召喚状を出したりはしているものの、器物損壊や略奪、武器所持といった重罪で起訴された例は聞いていないという。

「リアルタイムで監視カメラをチェックすれば(犯罪を)防げるわけではありません」と、ガリグリアは言う。「本気で取り締まるつもりなら、『窓が割られている場所は以下の通りです。この地区の午前1時から2時の間の映像を確認しましょう』とやれば済みます。でも、そうはしなかったのです」

サンフランシスコ市警察にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

人権活動家は、このように警察が広範囲に及ぶ権限を要請することに懸念を示す。防犯カメラの映像が本来の目的を超えて使われても、往々にしてあとで正当化されるものだからだ。活動家のひとりは、焦点がずらされることによって、そもそも監視行為そのものに犯罪を抑止する効果があるのか、という問題に正面から向き合っていないと指摘する。

Detroit Justice Centerのウィリアムズは、次のように語る。「わたしたちがいま経験しているのは、テクノロジーが法の先を行く場合に生じる普遍的な問題です。その意味ではデトロイトに限った話ではありません。国全体の問題です」


RELATED ARTICLES

TEXT BY SIDNEY FUSSELL

TRANSLATION BY NORIKO ISHIGAKI