JAL、苦肉のLCC頼み 再上場後初の赤字2866億円
日本航空(JAL)が収益構造の再構築に乗り出す。7日発表した新たな中期経営計画で、格安航空会社(LCC)事業や非航空収入の拡大を通じ、2024年3月期に新型コロナウイルス禍以前の利益水準を回復する目標を掲げた。コロナ禍を受けてビジネス需要の縮小が見込まれる中、観光需要や新事業で補う狙いだが、足元では需要低迷が続き道のりは険しい。
「リスクに耐えうる持続可能な事業構造を構築する」。同日記者会見した赤坂祐二社長は、新中計の狙いをこう説明した。
21年3月期の連結最終損益(国際会計基準)は2866億円の赤字(前の期は480億円の黒字)と12年の再上場後で初の赤字だった。売上高に当たる売上収益は前の期比65%減の4812億円。前期通期の旅客数は国内線が前の期比67%減、国際線が96%減。足元でも新型コロナの変異ウイルスの感染が広がり、国内では3度目の緊急事態宣言が延長決定されるなど事業環境は厳しい。今期の業績予想は未定とした。
逆風下で策定した5年間の新中計は、前半の3年間でコロナ禍以前の利益水準に戻す計画とした。24年3月期にEBIT(利払い・税引き前損益)を1700億円、最終年の26年3月期に約1850億円に引き上げる目標を掲げる。コロナ影響を除いた20年3月期のEBITは1320億円、前期は3983億円の赤字だった。
航空事業ではLCCを成長の軸に据える。テレワークやリモート会議の拡大を受けて出張などのビジネス需要は減速する見通しで、「JAL」ブランドのフルサービスキャリア(FSC)事業の売上高は26年3月期時点でコロナ前の19年1~12月と比べ微減になる計画だ。
5年間で約8500億円の投資を計画するが、大型機のボーイング777型機は削減し、787型機など中・小型機の比率を引き上げる。グループ全体で使用する航空機は24年3月期末で229機と、20年3月末から12機減らし資産のスリム化も進める。
ビジネス需要の減退を、観光客などに強いLCCの強化で補う。少額出資する中国系の春秋航空日本(千葉県成田市)は6月をメドに連結子会社化し、中国からの訪日客需要の取り込みを強化。国際線を手がける完全子会社のジップエア・トーキョー(同)はアジアや米西海岸などに路線網を広げ、国内では豪カンタス航空と共同出資するジェットスター・ジャパン(同)で需要を取り込む。
非航空系の事業も拡大し、航空需要の急変に強い事業構造をつくる。マイル会員に対する金融サービスのほか、観光振興や商品開発など地域を活性化する支援事業を強化する。
24年3月期の利益計画(EBITベース)とコロナ影響前の20年3月期実績を比べると、LCCを100億円、非航空事業を160億円の増益要因とする計画。このほかFSCの採算性の向上や貨物輸送で120億円の増益を見込む。
国際航空運送協会(IATA)は4月に世界の航空需要の見通しを下方修正し、21年の旅客輸送の規模は19年比57%減(従来予想は49%減)とした。航空需要の低迷が続けば資金繰りが悪化する懸念もある。JALの前期の営業キャッシュフロー(CF)は2195億円の赤字。4~6月は1カ月あたり100億~150億円規模の資金流出を見込んでおり、資金流入に転じるのは7~9月期以降としている。
3月末時点で4083億円の現預金を保有し、当面の運転資金は確保している。有利子負債は5151億円とこの1年で86%増えたが、昨年の公募増資で約1800億円を調達したことで自己資本比率は45%と世界の航空大手の中では高水準を保っている。菊山英樹最高財務責任者(CFO)は「健全な財務体質を維持できている」と話す。
当面の需要減少と向き合いながら、成長戦略を軌道に乗せる難しい経営が求められている。