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大阪市の教員から怒りの声、オンライン授業に登校での給食

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 緊急事態宣言で小中学校で一部の時間帯にオンライン授業を実施すると発表して注目された大阪市だが、学校現場からの評判は最悪なようだ。「オンライン授業をやりながら学校で給食をとる意味がわからない」とか「そもそもオンライン授業ができる環境が整っていない」といった教員からの声が、筆者のもとにも届いている。

|大阪市だけが特別の対応

 3回目となる緊急事態宣言を東京、大阪、京都、兵庫の4都府県を対象にだすことを政府が決めたのは、4月23日だった。その前日の22日、大阪市教育委員会は緊急事態宣言下での小中学校における独自の対応方針を通知した。

 それによれば小学校の場合、児童は1、2時間目は自宅でオンライン授業や配布されたプリントなどによる学習を行い、その後に登校して3、4時間目は1、2時間目に行った学習の振り返りなどにあてる。それから給食を食べて、午後は帰宅して学校で配られたプリントなどをこなす。

 そして中学校は、午前中に自宅でオンライン授業やプリントでの学習を行い、その後に登校して給食を食べる。午後は、午前中の振り返りなどを行う。部活動はやらない。

 25日の日曜日に緊急事態宣言は発出され、翌日の月曜日(26日)から、大阪市の小中学校は上記の方針を実行することを求められた。緊急事態宣言の対象となった4都府県の大阪市以外の地域の学校は、部活動の中止をのぞいては、ほぼ「通常」どおりの登校授業が続けられている。大阪市だけが「特別」な対応をとったことになる。

 文科省のGIGAスクール構想での「1人1台ICT端末」が前倒しとなり、今年3月末を目標に実現されることになったのは、昨年の緊急事態宣言がきっかけだった。緊急事態宣言が続いていた2月27日、当時の安倍晋三首相が突然、全国の小中高校の一斉臨時休校を要請したのだ。

 それを受けて3月2日から、学校は長い休校へと突入していく。そこで授業の遅れが問題視されるようになり、オンライン授業が注目されていくことになる。新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)の感染拡大の収束がみえないなか、再び一斉臨時休校になる可能性も否定できないし、新型コロナのような休校が必要となる事態が起こることもありうる。そのときオンライン授業ができれば、授業の遅れは防げるというわけだ。

 1人1台ICT端末の実現目標とされたのは今年3月末で、予定どおりなら4月には、全国の小中学生の手元にICT端末が届いていなければならない。オンライン授業の「準備」はできていたともいえるわけで、そうであれば大阪市がオンライン授業を前提にした方針を決めてもおかしくない気がしないでもない。

 しかし3回目の緊急事態宣言が発出されても、文科省は休校には前向きではないし、オンライン授業を積極的に取り組む指示もだしていない。1人1台ICT端末の実現が遅れているからだ。3月17日に文科省が公表したところでは、3月末までにICT端末の納品が完了すると答えたのは全自治体の97.6%である。4月になってもICT端末が児童生徒に届かない自治体もある。ICT端末が手元にあったとしても、それだけでオンライン授業が実現するわけでもない。だから、文科省もオンライン授業を前提にした対策を押し出せないのだ。その意味でも、大阪市の対応は「特別」だといえる。

|全部の学校でオンライン授業が可能との誤解を憂慮する教員

「こういう報道があると、大阪市の全部の学校でオンライン授業がきちんとやられていると世間の人たちは受け取りますよね。学校現場は、たまったもんじゃありません」

 と、大阪市の小学校教員がいった。そして、「こういう報道」のひとつとしてあげたのが、今年4月26日付の『毎日新聞』(電子版)の記事だった。

 記事は、「大阪市立小中学校では26日から家庭でのオンライン授業と教室での対面授業を組み合わせた取り組みが始まっている」として、市立本田小での5年生と6年生でのオンライン授業の様子を伝えている。ここだけ見た読者は、大阪市の方針どおりオンライン授業が行われていると受け取るかもしれない。

 そして、オンライン授業がやれていない大阪市の小中学校に対しては、「なんでやれていないの」という批判的な視線が向けられるかもしれない。教員にしてみれば、「たまったものじゃない」のだ。

 なぜなら、大阪市もオンライン授業の体制が完成できているわけではないからだ。ほかの小学校教員も次のように語る。

「6年生で生徒のタブレットと学級担任のタブレットが繋がるか実験したのは、緊急事態宣言がだされてから4日目でした。そんな状態ですから、オンライン授業なんて満足にできるわけがありませんよね」

 そういう話を聞いて、あらためて先の記事を読むと、本田小でのオンライン授業は5年生と6年生だけである。全学年で実施されたわけではない。しかも記事には、「同小は、2013年ごろから先進的にICT(情報通信技術)活用に取り組んできた」とある。

 早くから取り組んできたからこそ可能なわけで、それでも高学年だけだ。最近になって繋がるか実験をしている学校が、同じことができるわけがない。それでも松井一郎・大阪市長は、全小中学校に同じように、それ以上にやることを求めたのだ。学校現場にしてみれば、たまったものじゃない。

 大阪市の教員が疑問をもち、不満を感じているのはオンライン授業だけではない。給食の実施についても、次のような声が少なからずある。

「感染拡大防止をいうなら、給食のときがいちばんリスクが高い。オンライン授業をやりながら、わざわざリスクの高い給食だけは全員が同席して食べさせるなんて、とても信じられない。

 中学校のある教員は、「給食を実施すれば保護者は仕事を休む必要がないので、保護者は喜ぶでしょうね。松井一郎市長の人気取り、選挙対策と勘ぐられても仕方ないんじゃないでしょうか」といった。

 5日、今後の対応を関係閣僚と協議した菅義偉首相は、11日が期限の宣言解除について「判断が難しい」との見解を示した。延長の調整にはいっているとの報道もある。前日には大阪府の吉村洋文知事は11日の宣言解除は難しいとして、国に緊急事態宣言の延長を求める姿勢を明らかにしている。

 延長になれば、松井市長は小中学校でのオンライン授業と給食実施を続けるのだろうか。「たまったものじゃない」という学校現場の声に、耳を傾けていくつもりはあるのだろうか。松井市長の姿勢も問われることになる。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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