FASHION

実力派テーラー、直井茂明に迫る──南青山のセレクトショップ「シャロン」の名工

本誌インターナショナル・ファッション・ディレクターのジーン・クレールが、愛してやまないお気に入りのテーラーとショップを紹介する。

最近はすっかり人づきあいもできなくなり、旅にも出られなくなった。しかし、以前は行く先々でよく「素敵なスーツですね。つくったのは誰ですか?」と尋ねられたものだ。テーラーでさえ、この質問をしてきた。答えは直井茂明だ。東京・南青山の骨董通りにある名店「シャロン」で仕事をしている。私のお気に入りの店のひとつであり、彼は2015年からここでビスポークを担当している。

大事なのはスーツやジャケットのありのままの姿だ。ポイントは肩の位置、ウエストの絞り(丈は伝統的なイタリアンスタイルより少し長めだ)、トラウザーズの腰の収まり方。そう、本当に着心地がいいのだ。彼のフィッティングは完璧だ。とくに、完璧とは言い難い私のような体型の持ち主にとってこれ以上のものはない。というのも私の場合、寸法を測るときに苛立ったあげく匙を投げてしまったテーラーもいるほどなのだ。

それでなくとも直井が素晴らしいのは、その謙虚さだ。ビスポークテーラーの多くが自身のエゴイズムによってモチベーションが掻き立てられているのに対し、彼を導くのは仕事そのものであり、情熱であり、誠実さだ。その姿勢は爽快ですらある。モノをつくる者にとってのしかるべき理由で、これらすべてをこなすのだ。

最高の服をつくる、ただそれだけで彼は人をあっと驚かせる。ステータスとブランドタグありきで値段だけがつり上がったスーツの誇大広告にうんざりしている私にとって、昔気質の職人である彼はヒーローだ。あまりに貴重な存在だ。究極のテーラーと呼んでもいい。

彼は「ビスポーク(何かについて語るという英単語"bespeak"から派生)」という言葉の真の意味(テーラーと話しあう)を思い出させてくれ、誰もが誇る存在となっている。まさに「ブラボー!」の一言。またどこかで読者のみなさんと出会うことがあれば、喜んでもっと詳しい話をさせてもらおう。

2012年に南青山の骨董通りに誕生した「シャロン」は、オーセンティックなイタリアンスタイルのアイテムが揃うセレクトショップだ。それもそのはず、この店の品は、すべてスタッフが年に何回もイタリアへ渡って、直接買い付けている粒ぞろいだから。イタリアンクラシコスタイルを愛する者ならば、お店に寄ってみてほしい。クオリティとスタイルにたいして理解を深めることができるだろう。

直井の作業風景を撮影したのは、「シャロン」の3階にある、彼のアトリエだ。パターン引きから仕立てまで、すべて手作業でつくるオーダーメイドのジャケットやスーツがズラーっと並んでいる。お客さんと一対一で話をして、ゼロからつくりあげるフルオーダーの「サルトリア・ナオイ」のス・ミズーラは、直井が1人ですべての工程を手掛けているため、現在の納期は、最低でも2年待ちの状態だという。

SHARON

東京都港区南青山6-6-21
グロービル青山1~4F
営業時間:12:00~20:00
TEL:03-6418-5131

Il MAESTRO NAOI

Shigeaki Naoi 直井茂明

2001年服飾専門学校卒業後、ペコラ銀座にて佐藤英明氏に師事、その後縫製工場にて水落卓宏氏に師事する。伊勢丹にて自らのブランド「SHIGEAKI NAOI」を立ち上げる。2015年にSharonに入社、SU MISURAやSartoria Sharonの商品企画を担当している。

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Gene Krell ジーン・クレール

『GQ JAPAN』『VOGUE JAPAN』のインターナショナル・ファッション・ディレクター。ファッション・デザイナーのヴィヴィアン・ウエストウッドの右腕を務めた経験をもち、世界的に活躍している。

Words ジーン・クレール Gene Krell 
Photos ナオコ・イナガキ・クレール Naoko Inagaki Krell
Translation 河野陽子 Yoko Kono