中国人民銀「産児制限完全廃止を」 少子高齢化に危機感
【北京=川手伊織】中国人民銀行(中央銀行)は人口構造の転換を分析したワーキングペーパーで、産児制限を完全に廃止すべきだと主張した。急速に進みつつある少子高齢化への危機感から、制限撤廃をめぐり「これ以上ちゅうちょしてはならない」とも強調した。
中国は1980年ごろから一人っ子政策を実施し、人口を抑制してきた。2016年には2人目の出産を認めたが、働き手はすでに減少しており、高齢化のペースも速い。
人民銀によると、働き手1人に対する高齢者の割合は19年時点で18%だった。中国政府が検討する定年の引き上げを実現できなければ、35年に50%、50年に68%まで上がると試算した。
日本のバブル崩壊後の経済停滞と少子高齢化の関係も分析した。1人当たり国内総生産(GDP)は全体に伸び悩んだが、労働力人口に限れば増え続けた点に着目した。「高齢化の危機を、技術進歩や教育水準の向上で補うことは難しい」と結論づけた。
対応策として産児制限の完全撤廃を挙げた。子育て環境の改善など出産奨励策も欠かせないと指摘した。武漢大の羅知経済系主任は中国メディアに「中間所得層の養育コストを下げるため、多産家庭への税の減免や公立幼稚園、小中学校の供給増が必要になる」と語った。
人民銀は年金改革の推進にも言及した。高齢化率の上昇に対応して賦課方式から積み立て方式へ転換すべきだと提唱した。新型コロナウイルス対応などで発行した特別国債も活用し、積み立て方式にかえるための資金を調達すべきだと訴えた。
働き手不足に関しては、農村から都市へ労働力を移転させるだけでなく、企業の海外進出で現地の豊富な労働者を積極的に活用すべきだとした。さらには、先進国と同じように移民受け入れの研究も試験的に始めることも提起した。
産児制限の撤廃や出産奨励といった抜本策に加え、科学技術や教育の進歩も人口問題の解決に欠かせないと主張した。革新を担う若者が都市部に住居を構えられるよう、住宅価格を抑制すべきだと強調した。教育面では理工系教育の重視を提言した。東南アジア諸国が「中所得国のワナ」に陥り、成長率が鈍ったのは、文系の学生が多いからだと分析した。