恐怖より歓喜の叫び声に人は敏感、通説覆す驚きの研究結果

6種類の感情に基づく叫び声を特定し分析、理由は謎

2021.04.17
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
苦痛から高揚感まで、人はさまざまな感情によって叫び声を上げる。私たちの非言語的な発声の多様性を研究することが、言語の起源をたどる手掛かりになるかもしれない。(PHOTOGRAPH BY GLASSHOUSE IMAGES, ALAMY STOCK PHOTO)
苦痛から高揚感まで、人はさまざまな感情によって叫び声を上げる。私たちの非言語的な発声の多様性を研究することが、言語の起源をたどる手掛かりになるかもしれない。(PHOTOGRAPH BY GLASSHOUSE IMAGES, ALAMY STOCK PHOTO)
[画像のクリックで拡大表示]

 サッシャ・フリューホルツ氏は防音用のパッドが貼られた小さな部屋で深呼吸し、耳をつんざくような叫び声を上げた。フリューホルツ氏がそこにいた理由には、ビートルズが関係している。

 ノルウェー、オスロ大学の認知神経科学者であるフリューホルツ氏は、1960年代のビートルズのコンサートを収録したビデオが頭から離れなかった。音楽が激しくなると、観客は本能的に喜びの反応を示し、金切り声や叫び声を上げる。「これらの人々にとっては、この圧倒的な高揚感を表現する方法がほかにないのです」

 いかにももっともな観察だが、これまで人の叫び声に関する科学研究はほぼ例外なく苦痛の表現に焦点を当てており、この点がフリューホルツ氏を悩ませていた。そこで、ネガティブなものからポジティブなものまで、根底にある感情の種類によって人の叫び声を識別できないかとフリューホルツ氏らは考えた。氏らの研究チームは痛み、怒り、恐怖、喜び、快楽、悲しみの感情に基づく叫び声を録音して音響的に分析。研究結果を4月13日付けで学術誌「PLOS Biology」に発表した。

 予想外の発見もあった。叫び声を聞いた人の脳は、警告とは見なされない喜び、快楽、悲しみの叫び声を、痛み、怒り、恐怖の叫び声より容易に認識し、効率的に処理していたのだ。すべての動物にとって、叫び声は周囲に危険を素早く伝える重要な手段と考えられている。今回の研究で、なかでも喜びの叫び声が最も強い反応を誘発した理由は謎だ。

 フランス、リヨン大学の音声研究者カタジナ・ピザンスキー氏によれば、人の非言語的な発声に関する研究は比較的新しいという。人に関する初期の研究のほとんどは、動物界ではほかに類を見ない発話や言語に焦点を当てていた。「それこそが人間らしさです」。なおピザンスキー氏は今回の研究に参加していない。

 しかし最近では、叫び声、笑い声など、ほかの動物の発声に似た非言語的な声に着目した研究も増えている。人は驚くほど多様な音を表現しており、その音響的な多様さが人のコミュニケーションの進化を理解する鍵になるかもしれない。

「私たちがどう違うかを理解するには、私たちの共通点を調べる必要があります」とピザンスキー氏は話す。

次ページ:「好きなサッカーチームが優勝」など

ここから先は、「ナショナル ジオグラフィック日本版」の
会員*のみ、ご利用いただけます。

会員* はログイン

*会員:年間購読、電子版月ぎめ、
 日経読者割引サービスをご利用中の方、ならびにWeb無料会員になります。

おすすめ関連書籍

脳の謎 誰も知らない隠された能力

謎の多い人間の脳について、最近の科学的進歩を解説した書。人間の脳に関する「100の謎」を、学習、知能、意識、情動、加齢の5つのテーマに分類して、豊富な写真・イラストとわかりやすい文章で説明しています。

定価:1,540円(税込)

おすすめ関連書籍

人類史マップ

サピエンス誕生・危機・拡散の全記録

人類がどのように生まれ、危機の時代を過ごし、世界各地へ拡散していったのかを、様々な考古学的データをもとに再現。 〔全国学校図書館協議会選定図書〕

定価:3,520円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加