首都圏の病床使用、前年下回る コロナ患者受け入れ偏り
財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は15日の分科会で、新型コロナウイルスの感染者数が米欧より少ないにもかかわらず医療が逼迫する問題を取り上げた。首都圏1都3県で2020年の病床使用率が前年を下回り、受け入れ医療機関に偏りがある点に着目。病院間で「役割分担・連携体制の強化を図ることが必要」と指摘した。
財制審は財政健全化に向けた建議を年2回まとめる。少子高齢化で膨張する社会保障費をどう抑制するかが大きなテーマで、今回はコロナ危機があぶり出した非効率な医療提供体制の課題を点検した。既存の医療資源を有効活用できなければ医師の配置などで無駄が増え、医療費が膨らみかねないとの危機感がある。分科会の委員からは「なぜいまだに連携がすすまないのか。構造的な要因に踏み込んだ提案をしていくべきだ」との意見が出た。
新型コロナの感染者数が多かった1都3県の一般病床の使用率は20年に一貫して前年同月を下回った。感染症病床を含めても同様の結果になる。
病床に空きがあってもすぐに入院できない患者が大量に発生したのは、専門の医師や看護師らが偏在しており、機動的に患者を受け入れる体制が整っていないためだ。
日本は人口あたりの病床数が欧米より多い。人口1000人あたり13.0床で米国(2.9床)やドイツ(8.0床)を上回る。経済協力開発機構(OECD)によると、加盟国で最も多い。
一方、病床あたりの医療従事者は少ない。1床あたりの臨床の医師数は0.2人で米国(0.9人)やドイツ(0.5人)を下回る。単純計算で1人の医師が5床を診ている。日本は中小の病院が全国に点在し、医師も分散せざるを得ない。欧米では大病院に医師が集まって入院治療に当たる。1人あたり1~2床を担当する計算で、日本では医療資源が分散していることが、体制の脆弱さにつながっている。
医療機関の間で柔軟に医師や看護師らが行き来する体制を構築できていないのも課題の1つだ。クラスター(感染者集団)が発生した病院に応援で入った医療従事者は「限界になるまで助けてほしいと言われない」と明かす。有事には医師や看護師らを柔軟に派遣できるようにする仕組みづくりなどが課題になる。
日本は病院の8割が民間の運営だ。行政がコロナ患者の受け入れ体制を拡充しようとしても、基本的に要請にとどまる。十分なコロナ病床を確保できない状況が最初の緊急事態宣言の発出から1年過ぎた今も続く。
コロナ患者を受け入れる医療機関は経営が悪化する懸念もある。財務省は財制審で示した資料で「財政面で受け入れをちゅうちょすることがないよう、より簡便かつ効果的な支援のあり方を検討する」と明記した。有事に対応できる効率的な体制への転換が急がれる。
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