3月31日に米The Wall Street Journal(WSJ)をはじめとする海外メディアが、Micron TechnologyならびにWestern Digitalが個別にキオクシアを約300億ドルで買収しようと検討していると報じたが、果たして本当にキオクシアの買収が可能なのか考察してみよう。

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    キオクシアの96層3D NANDウェハ (編集部撮影)

まず、押さえておくべき事実関係のうち、もっとも重要なことは、キオクシアの四日市工場は東芝時代から20年余にわたってSanDisk(現Western Digital)との合弁事業としてNANDの開発・製造が行われ、それを両者が別々に販売してきたということである。

しかも、製造装置に対する投資は2社が共同して負担してきた。つまりWestern Digitalも装置の所有権を持っているわけである。ただし、同社はキオクシアという企業そのものの所有権を有しているわけではない。これにより、東芝メモリ時代に行われた事業売却に際して、事態が複雑化し混乱が生じた。米投資会社Bain Capitalが東芝メモリの買収を決めた際、Western Digitalはこれを不服として、国際商業会議所(ICC)の国際仲裁裁判所へ訴えを起こした。この結果、Western Digitalがイエスと言わない限り、装置を使えない異常事態となったが、最終的に、両社は和解して現在に至っている。

2021年4月時点のキオクシアの株式は、Bain Capitalが約6割、東芝が約4割所有している。また、SK Hynixが全体の14.96%分をBain Capaitalに出資する形で、相当分の議決権を獲得しており、IPOまでは影の株保有者の1社となっている。

Micron、Western Digitalそれぞれの買収における問題点は?

もし、Micronがキオクシア買収に本格的に動くと何が起きるだろうか。おそらくは上述したことの経緯の繰り返しで、Western DigitalがMicronに装置を使わせないと言い出すことが想像される。最悪の場合、Micronは独自で新ファブを建設する必要が生じ、買収するメリットがなくなってしまうこととなる。

一方、Western Digitalがキオクシアを買収するとなると、こうした権利に関する問題は発生しない。会社の所有者と装置の所有者が同一になり、運営の複雑さが解消されることとなる。東芝メモリが売りに出された時もWestern Digitalは買収に名乗りを上げたが、最終的にはBain Capitalに軍配があがった。

そんなWestern Digitalがキオクシアを買収しようとする際に問題となるとすると、2016年にSanDiskを190億ドルで買収した際に生じた負債の多さで、いまだに長期債務残高は90億ドルほどあるとされている。

また、Western Digitalの現在の時価総額は約220億ドル(2021年4月6日時点)であり、キオクシアの購入価格とされる300億ドルをはるかに下回っており、本当にキオクシア買収のための資金調達ができるのか、という疑問も残る。ちなみにMicronの時価総額は1000億ドルを超えており(2021年4月6日時点)、資金調達の心配はないとみられる。

最適シナリオはMicronによるWDとキオクシアの買収か?

こうしたMicronならびにWestern Digitalそれぞれが抱える問題を一気に解決できる方策があるとする米Susquehanna Financial Groupのアナリストの見解を、米国の週刊投資金融情報専門紙Barron'sが「Kioxia Sales Talks Could Spur Micron to Buy Western Digital, Analyst Speculates」と題して紹介している。

それによると、まずMicronが時価総額が1/5ほどのWestern Digitalを買収することで設備の所有権に絡むいざこざに対処する必要がなくなるほか、新ファブ建設の必要性もなくなるという。この結果、Micronは現状のNANDウェハの生産能力を確保しながら、キオクシアとの合弁体制を効果的に維持でき、その後、満を持してのキオクシア買収へと進むことで、すべての問題を解決できるという。

Susquehanna Financial Groupによれば、キオクシアとWestern DigitalのNAND市場シェアは合計で約34%であり、Samsung Electronicsの約33%、SK HynixならびにIntelの合計が約16%、Micronが14%となっており、MicronとしてはNAND事業を強化したいという思惑があるとみられるとしている。

Micronの現CEOは四日市工場を知り尽くしたSanDiskの創業者

2017年5月にMicronのCEOに就任したSanjay Mehrotra氏は、もともとSanDiskの共同創業者の1人で、2016年まで同社の社長兼CEOを務めていた。Western Digitalによる買収後はWestern Digitalの取締役も兼ねていた。

同氏は、SanDisk当時、17年間にわたって東芝と四日市工場におけるNANDの開発・製造に関する協業を主導してきた人物で、四日市工場の内情を知り尽くした人物である。この意味で、同氏こそ、Micron、Western Digital、キオクシアに接点のある、今回の噂の中心人物ではないかとの見方がある。同氏は、NANDビジネスのプロであり、MicronのNANDシェアが10%強しかない現状を打破する方向を模索していてもおかしくはない。

WSJによれば、MicronかWestern Digitalのいずれかによるキオクシアの買収交渉は、早ければ今春の終わりまでに決着する可能性があるとしているが、破談になった場合は、今年後半にもキオクシアがIPOを行う可能性があるとしている。

SK Hynixはどう動くのか?

Bain Capitalを通じて東芝メモリ買収に3950億円を拠出し、議決権ベースでは14.96%を有するSK Hynixの動きも1つの鍵となる可能性がある。しかし同社は経済産業省の意向を反映して、キオクシアの合意がない限り、買収後の10年間にわたって15%超の議決権を保有することはできない契約になっているという。

別な見方をすれば、10年経てばSK Hynixもキオクシアを完全に買収することが可能になるとみることもできすほか、両社が合意すれば、10年待たずに契約を変更することも可能だといわれている。

米国半導体企業がキオクシアを買収した場合、SK Hynixはどのような動きをするのか、韓国メディアでもその見解が2分している模様だ。片方の主張は、このままキオクシアへの出資を続ければ、自動的にキオクシアの利益の一部が転がり込むことになるので、出資を継続すべきというもの。もう一方は、IntelのNAND事業を手に入れることができたのだから、もはやキオクシアに出資する必要はなく、この際、キオクシアへの出資を止めて、その差益をもって、IntelのNAND事業買収にあてるべきというものである。このほか、SK Hynixはキオクシアと手を組んでSamsungに対抗すべきだという主張もあり、MicronやWestern DigitalだけではなくSK Hynixの今後の動きも注目する必要があるだろう。