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ミーガン・ジー・スタリオンとは誰か?──女性たちをエンパワーするラップ・クイーン

過激な歌詞にセクシーな出で立ち……けれどそれは男たちのためじゃない!世界が注目するヒットメーカー、ミーガン・ジー・スタリオンをヒップホップ音楽ライターの渡辺志保が、米版『GQ』の記事をもとに紹介する。
Rapper Megan Thee Stallion wearing earrings, short necklace, cocktail ring, bracelet and white fur coatADRIENNE RAQUEL

2020年、ビヨンセをフィーチャーした「Savage(サヴェージ)」、そしてカーディ・Bとの「WAP(ワップ)」という2曲を立て続けにビルボードのトップチャートへと送り込み、同年、『TIME』誌の「世界で最も影響力のある100人」や、米版『GQ』の「ラッパー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。それが、いま最高にホットなMCのミーガン・ジー・スタリオンだ。

1995年、米・テキサス州ヒューストン生まれのミーガンは幼いころに父親を亡くし、母親に育てられた。母親もまた、ホリー・ウッド(Holly-Wood)というステージ・ネームで活躍していたラッパーであった。2019年3月に、ホリーは脳腫瘍により急逝してしまったが、直前までミーガンのマネージャーとして、そしてメンターとして彼女に寄り添っていたという。「『ママに電話して訊いてみる』が口癖だったんです。いまは電話することもできないけど、『ママだったらどうするかな?』と考えるんです。私はまだ20代だし、結局、答が出ない時もあります。けれど、ママは私のそばにいます」。

ミーガンの「イズム」を形成したのは、母のホリーと、2人の祖母だという。祖母たちは、独立独歩の精神や、タフでいることの大切さを彼女に教えた。「ママと祖母たちは、『ミーガン、あなたに男なんて必要ない。それに"コレをよこせ、そうすれば俺はコレをやるよ"なんていうことを言う人間に近寄らないように』と、よく私に言っていました。だから私も、子供のころから『分かった! 男は必要ない』とよく言っていたんです」。
ミーガンは、自らを「ホット・ガール・メグ」と称し、思いっきりセクシーな表現と衣装を武器に堂々とステージに立つ。ただ、彼女が誇示するセクシーさは、男性のためのものではない。あくまで、女性たちのため、なかでも黒人女性たちをインスパイアするためのものなのだ。「女性がセックスの主導権を握ることを、男性は怖がっているように思います。セックスは、両者にとって気持ちいいものであるべきです。でも、往々にして男性はセックスを武器や脅しの道具として扱っているように思えてならないんです」。

カーディ・Bとの「WAP」は、歌詞やMVが過激すぎるとして、一部の保守層から攻撃の的となった。しかしその一方、この曲は、女性が自らの性、そして性的魅力を主体的に表現するエンパワメント・ソングとしても機能した。その後の人気はご存知の通りだ。「黒人女性には、もっと声をあげてほしいんです。そして自分たちの価値にふさわしいものを求め続けてほしい。私のラップを聴いて、自分が人生の主人公であるような気持ちになって欲しいのです」。

Rapper Megan Thee Stallion wearing short necklace, ring, bracelet, asymmetric dress and high heel sandalsADRIENNE RAQUEL

PROFILE

Megan Thee Stallion

1995年、米・テキサス州ヒューストン生まれのラッパー。インスタグラムでフリースタイルラップを披露する動画で人気になり、注目を集める。テキサスサザン大学で保健管理学を学ぶ大学生でもある。シングル曲「WAP」や「Savage」が全米ナンバーワンヒットを記録した。

Words 渡辺志保 Shiho Watanabe
Photos エイドリアン・ラケル Adrienne Raquel