2021年3月31日、世界経済フォーラムが2021年度の「グローバル・ジェンダーギャップ・リポート」を発表。日本は156ヵ国中120位で、2020年の121位より1位上昇したが、G7の中で最下位だ。これは、「経済」「教育」「医療へのアクセス」「政治参加」という4つの分野で男女格差が指数化したもの。特に日本は経済分野については117位、政治参加に至っては147位とかなり低く、ジェンダーギャップ指数を下げる要因となっている。なぜ改善されないのか。ジャーナリストの浜田敬子さんが、そのジェンダーギャップの背景にある「席を空けない」動きについて考察する。

 

理由が明らかにされないまま演出家が交代

五輪とジェンダー問題に関して森発言に続く「爆弾」が、文春砲によってもたらされた。“天皇”とも呼ばれてたという電通出身のCMクリエイターの佐々木宏氏によるタレントの渡辺直美さんに対する演出問題。批判が殺到したため辞任に追い込まれたが、私はもっと問われるべき、きちんと解明させられるべき問題は、本来演出するはずだった女性演出家が、理由も明らかにされないまま理不尽な形で途中交代させられたことだ。

週刊文春によると、昨年5月段階で開会式の演出責任者となっていたのは、『逃げ恥』の恋ダンスやリオ五輪のセレモニーも手がけた演出振付家のMIKIKO氏。彼女の演出案はほぼ完成しており、その内容や500人のチームをまとめ上げる力にIOCも満足していたという。だが、コロナによる五輪延期でチーム全体が待機を余儀なくされた。その後何の連絡もなかったため、10月になってMIKIKO氏が問い合わせたところ、すでに別の新しい演出家が任命され、その人の案が採用されることを知らされたという。その経緯についてはMIKIKO氏本人もTwitterで明らかにしている。
https://twitter.com/mikiko_san/status/1375395260512133127?s=20

MIKIKO氏が手掛けたリオ五輪閉会式のセレモニー。リオから東京への引継ぎセレモニーに多くのダンサーが登場するパフォーマンスに大きな称賛が集まった Photo by Getty Images

新たな演出家を起用し、MIKIKO氏外しの中心だったのが、元五輪組織委員会会長の森喜朗氏と昵懇の佐々木氏だったと報じられている(佐々木氏は否定)。

この経緯を文春報道やMIKIKO氏のTwitterで知って、愕然とした。これほどの税金を投入して行う一大イベントが、こんな不透明さの中で決まってしまうこと。どんな演出ができるのかという“能力”でなく、元政治家とのつながりというコネや元電通、業界の大物という経歴で完成しかけていたものにまで横槍を入れてしまうこと。そして結果的には、MIKIKO氏やミュージシャンの椎名林檎氏、障がい者パフォーマンスの第1人者である栗栖良依氏など女性たちが排除される格好になったこと。当初、彼女たちが入ったことでジェンダーバランスにも配慮した演出チームという“理想”は、何の説明もないままに解体させられた。

一方で、あー、またかとも思った。“男性実力者”たちによる不透明な意思決定。いつまで経っても、トップを譲り渡してくれないオールドボーイズクラブの壁。繰り返されてきたこの風景を見るたびに、私は最近「足をどけて」から「席を空けて」と訴えなくてはならない時代になっていると感じる。

「足をどけて」というセリフは、2020年に亡くなったアメリカの最高裁判事、ルース・ベイダー・ギンズバーグによって知られるようになった。女性2人目の米最高裁判事であり、RBGの愛称で、その高潔な生き方やリベラルな政治姿勢、特にマイノリティや女性の人権のための徹底的に闘う姿勢は、多くの若者や女性たちから支持されていた。ドキュメンタリー映画『RBG 最強の85歳』が公開されると、日本でも彼女のファンは一気に増えた。

ドキュメンタリー映画の中で彼女がこう述べるシーンがある。
「All I ask of our breatren is that take their feet off our necks」(日本語字幕では「男性の皆さん、私たちを踏み続けているその足をどけて」)

1993年、当時のビル・クリントン大統領に初の女性最高裁判事に指名されたRBGことルース・ベイダー・ギンズバーグ氏 Photo by Getty Images