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 米Apple(アップル)など異業種の自動車分野への相次ぐ参入は、産業の構造を大きく変える「破壊力」を秘める。特に設計に特化し生産は手掛けないファブレス企業の台頭で、これまでの自動車メーカーを頂点とした垂直統合のビジネスモデルは、スマートフォンのような水平分業へと変容するとの見方も多い。こうした変化をチャンスととらえ、動き出す企業が出てきた。

日経産業新聞と日経クロステックの共同連載企画の第2弾です。百家争鳴のAppleカーの行方を展望しつつ、新たなテクノロジーを深掘りし、勃興するモビリティー産業の最前線に迫ります。

 2020年はじめ、自動運転スタートアップであるティアフォー(名古屋市)創業者の加藤真平氏は、台湾を訪れて鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry)董事長(会長)の劉揚偉氏と面会していた。「これからは電気自動車(EV)やロボットにも注力していく」。こう語る劉氏に対し、ティアフォーが普及を狙う自動運転の基本ソフト(OS)「Autoware(オートウエア)」の有用性を説いていった。

 オートウエアは自動運転に不可欠な「認知、判断、操作」を一括して担う頭脳ともいえるシステムだ。15年の公開から無償開放するオープンソース戦略をとっており、日本における自動運転の実証実験で多く導入されているほか、世界で採用が広がっている(図1)。18年12月には普及に向けて業界団体を立ち上げ、トヨタ自動車のグループ会社や韓国LG Electronics(LG電子)、英Arm(アーム)など60社弱が名前を連ねる。

図1 Autowareを搭載した実験車
図1 Autowareを搭載した実験車
(出所:ティアフォー)
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 台湾での両者の会談から1年余り。21年3月下旬にオートウエアの普及団体は、鴻海が主導する「MIH EV Open Platform」と呼ばれるEVプラットフォームの普及団体と連携を決めた(図2)。MIHもオープン化の手法をとっており、標準化した部品やソフトなどを使って、中小や新興メーカーが比較的容易にEVへの参入が図れる利点がある。普及団体には既に米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)や中国・寧徳時代新能源科技(CATL)、日本電産など1000社以上が参画している。

図2 鴻海のEVプラットフォーム
図2 鴻海のEVプラットフォーム
20年10月に発表した(出所:鴻海精密工業)
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 両団体が連携することで、MIHを活用したEVに、オートウエアを採用した自動運転システムを載せやすくなる。自動運転とEVで存在感を高めるオープンソース陣営が手を組むことで、今まで一握りの大手の自動車メーカーやIT企業でなければ参入が難しかった自動運転EVの「敷居」が大きく下がる可能性がある。ティアフォーと鴻海は台湾の自動車メーカーと組んで21年秋には多目的スポーツ車(SUV)の自動運転EVを試作し、同国で実証実験を始める計画だ。