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 Zホールディングス(ZHD)傘下のLINEは2021年3月17日、中国にある関連会社の技術者に対して「LINEアプリ」を使うユーザーの個人データにアクセスできる権限を付与しながらプライバシーポリシーでの説明が不十分だったとして謝罪した。海外に業務委託をしている企業にとって人ごとではない。その一方で、海外に業務委託を過剰に萎縮させないよう仕組みの整備を急ぐ必要がある。

 LINEが情報管理についての説明をWebサイトに公表し謝罪したのは、「個人データの管理に不備があった」という同日の報道を受けたものだ。LINEの説明によると、LINEは中国・大連にある孫会社に委託して、捜査機関への対応や投稿監視などの機能開発のために、LINEアプリを使う日本国内ユーザーの名前や電話番号、メールアドレス、LINE IDなどへのアクセス権限を付与していたという。

LINEが2021年3月17日にWebサイトに公開した説明文書
LINEが2021年3月17日にWebサイトに公開した説明文書
(出所:LINE)
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 LINEはプライバシーポリシーに「お客様から同意を得た場合または適用法で認められる場合、お客様のお住まいの国や地域と同等のデータ保護法制を持たない第三国にパーソナルデータを移転することがあります」と記載している。ただ、今回LINEが説明したような詳しい内容までは記載していなかった。

 LINEはLINEアプリを使う国内ユーザーの一部個人データの扱いについて、「ユーザーの皆さまへのご説明が十分でなかった点について、ご不安やご心配をおかけすることになり、誠に申し訳ございません」と謝罪した。

 中国を巡っては、2017年6月に制定した国家情報法によって、国内外の組織や個人に対する監視や情報収集が強化されるのではないかという懸念が広がっている。報道はこうした懸念を背景にしたもので、今後LINEは有識者による特別委員会による検証などを進めるとしている。

「CBPR」などの体制整備が急務に

 LINEに限らず中国などの外国企業に業務を委託している国内企業は多い。IT業界を見ても、日本のIT企業が中国のオフショア開発サービスを利用したり、中国を含む外国企業にコールセンターやデータ入力など業務を委託したりする例は珍しくない。

 LINEに関する報道を受けて、「中国企業に業務委託している全ての企業リスクを洗い出すべきだ」という政治家の発言も報道された。しかし国内企業が労働力不足やコスト削減を理由に、中国など外国企業に技術者を求める動きは止められない。LINEのように各国でサービスを提供する企業はなおさらだ。海外への業務委託を過剰に萎縮させてしまうと、むしろ国内企業の経営が立ち行かなくなる恐れがある。

 そもそも委託先の外国企業が日本のユーザーらの個人データにアクセスできる場合に、国内企業があらかじめユーザーに同意を得ることが必須かと言えば、そうではない。