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 みずほ銀行で2021年2月28日に起きたシステム障害の全容が明らかになってきた。原因は定期預金に関するデータ更新作業に関する想定の甘さにある。テストなどで処理件数を適切に見積もれなかった結果、本番作業を実施した際にオーバーフローを引き起こし、ATMやインターネットバンキングの一部取引不能につながった。顧客対応の遅れも重なり、影響が雪だるま式に広がった。

 「ご迷惑、ご不便をおかけしたお客様や社会の皆様に深くおわび申し上げます」。2021年3月1日午後6時過ぎ、みずほ銀行本店で開いた記者会見で、藤原弘治頭取は深々と頭を下げた。

システム障害について謝罪するみずほ銀行の藤原弘治頭取(中央)ら
システム障害について謝罪するみずほ銀行の藤原弘治頭取(中央)ら
(撮影:日経クロステック)
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 システム障害は2月28日午前に発生した。店舗内外の自行ATMやネットバンキングの「みずほダイレクト」において一部の取引ができなくなった。ATMに関しては、みずほ銀行が保有する約5900台のうち、ピーク時は7割超に相当する4318台に不具合が出た。

 さらに、ATMからキャッシュカードや通帳を取り出せなくなる顧客が続出。コールセンターの要員不足により、ATMの脇に設置した電話もかかりづらく、多くの顧客が店舗などで足止めされた。キャッシュカードや通帳が取り出せなくなった事象は累計5244件に及んだ。

取引メインとATMの間口を絞る

 一連のシステム障害の引き金を引いたのは、2月28日の定期預金に関するデータ更新作業にある。みずほ銀行は同日、定期預金に絡み、計70万件のデータ更新処理を実行した。定期預金の積み立てなど定例のデータ更新が25万件あったほか、一定期間取引がない顧客を不稼働のステータスに変更する不定期の処理が45万件あった。前日も同様のデータ更新処理を実施していたが、2月28日は件数が10万件多かった。

 このデータ更新作業に関し、事前のテストを含めて「想定の甘さに起因」(藤原頭取)し、不必要な取引データを保管する「取り消し情報管理テーブル」でオーバーフローが発生。その結果、ATMやみずほダイレクトの定期預金に関する取引が不能になった。事前の想定が甘くなった理由は現時点ではっきりしていない。

 この不具合に起因し、副次的にもう1つの不具合が起きた。取り消し情報管理テーブルのオーバーフローの影響が勘定系システム「MINORI」全体に波及するのを防ぐため、MINORIの司令塔に当たるシステムである「取引メイン」と自行ATMの「間口」(藤原頭取)を絞ったのだ。「3つある間口のうち、2つを閉塞した」(同)。その結果、一部のATMが使えなくなった。取引メインはどの商品サービスをどの順番で呼び出して連携させるのかといったワークフローを制御する役割を担う。

 一部のATMが取引不能になったことで、キャッシュカードや通帳をATMが取り込んだままになる事例も続出した。不正など重大エラーが起きた時に備えて、ATMは取り込んだキャッシュカードや通帳を本人確認などが済むまで返さない仕様だったからだ。

新システム「MINORI」の全体像。図中の「取引メイン」と自行ATMで間口を絞る処理を実行した
新システム「MINORI」の全体像。図中の「取引メイン」と自行ATMで間口を絞る処理を実行した
(みずほフィナンシャルグループの資料を基に日経クロステック作成)
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