福島、再生エネが急成長 国や県の復興事業が後押し
東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所事故から10年を前に、福島県内で復興を支える新産業が育ってきた。国や県が復興政策の柱として新産業を積極的に支援した効果もあり、太陽光など再生可能エネルギーの発電能力が急成長。ロボット関連でも企業進出が相次いでいる。
原発事故で大きな被害を受けた太平洋沿岸の浜通り地区の西側に連なる阿武隈高地で、再生可能エネルギー専用の送電線の建設が急ピッチで進む。「通常は10年以上かかる事業を2~3年で完成させる」と言われる突貫工事だ。
一部では山あいに高架線を張る計画を途中で変更し、ルートを変えたうえで地下に埋設した。送電線の敷設主体で、福島県の外郭団体が出資する福島送電(福島市)の幹部は「再生可能電力の引き合いは旺盛だ。難工事だが完成を遅らせるわけにはいかない」と力を込める。
全国各地で送電線の不足が問題になるなか、福島県では国と県による送電線の整備が強みになっている。海沿いと山沿いの2ルートあり総延長は約80㌔㍍になる計画だ。
運用を開始した海沿いの送電線の周辺には大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設が相次ぐ。20年10月末時点で福島県内のメガソーラーの発電能力は87万2千㌔㍗で全国トップ。都道府県別の集計が始まった19年4月末は同4位だったが、1年余りで北海道や茨城県を抜いた。この間にメガソーラーの数は73から115へと6割増えた。
風力発電の計画も相次いでいる。県の集計では県内の風力発電の能力は24年前後には現在のほぼ3倍の約53万㌔㍗になる見通しだ。
生産される電力の多くは、固定価格買い取り制度(FIT)を通じて東京電力の管内に供給される。福島第1、第2原発の計10基の原子炉の廃炉が決まり、首都圏向けの基幹送電線に大きな空きができたと同時に、首都圏に巨大な原発代替需要が生まれる結果になった。
県は再生可能エネルギーとロボット産業の育成を大きな柱に「福島イノベーション・コースト構想」を進めている。内堀雅雄知事は再生可能エネルギーについて「全国の先駆けの地を目指す」方針だ。
福島県では25年に、再生可能エネルギーによる発電量が県内の電力消費をまかなえる量になる見通しだ。19年に121億㌔㍗時で消費量の80・5%だった再生可能な電力が25年には2割強増え、電力消費量を上回る。
国のエネルギー基本計画によると、日本全体の電源に占める再生可能エネルギーの比率は30年時点で22~24%にとどまる見通し。それだけに福島県の比率の高さが際立つ。
浜通り地区では企業の投資も活発になっている。工場やオフィスの新増設は震災後に累計約390件になった。
けん引役は国と県が整備した「福島ロボットテストフィールド」だ。約50㌶の敷地にドローンの飛行実験場、救命ロボット用の模擬災害現場、工場を再現した試験用プラントなど大小20余りの施設を配置した。
事故を起こした原子炉の廃炉には高性能のロボットが欠かせない。テストフィールドや周辺には廃炉作業に使うロボットだけでなく、センサー、制御、人工知能(AI)などさまざまな関連技術の開発や応用を目指す企業が集まる。
震災後に落ち込んだ福島県の製造品出荷額は17年以降、震災前の水準を上回って推移する。相馬市、新地町、南相馬市など浜通り地区の回復が顕著だ。
一方、軌道に乗るのが遅れている事業もある。県は国の補助を利用して134億円を投じた「ふくしま医療機器開発支援センター」(郡山市)を16年に開所した。医療機器産業の育成が目的だが、利用企業の開拓が遅れ、毎年数億円ずつ国の基金を取り崩して運営を維持する状態が続いている。
最先端の技術開発を目指して国が実施した3基の大型洋上風力発電による実験は、600億円強の事業費を投じたにもかかわらずトラブル続きで撤去が決まった。
イノベーション・コースト構想に詳しい福島大の小沢喜仁特任教授は「国や県が主導して、新しい産業を生み出す起点はできつつある」とし、「次は地元企業が受け身の姿勢ではなく、チャンスをとらえて事業に参加していくことができるかが焦点になる」と指摘する。
(郡山支局長 村田和彦)
政府、人材育成に重点
政府は今後の福島復興支援策として人材育成に重点を置く方針だ。2020年12月、政府の復興推進会議は福島県沿岸部に「国際教育研究拠点」を整備する計画をまとめた。県内に開設が相次いでいる研究開発施設の司令塔の役割を担い、新産業創出と人材育成を目指す。
政府は新拠点の研究分野として①ロボット(原発の廃炉作業で活用する遠隔操作ロボットなど)②農林水産業(大規模土地利用型スマート農業など)③エネルギー(水素利用技術や蓄電池リサイクルなど)④放射線科学⑤原子力災害に関するデータや知見の集積・発信――の5分野を掲げる。研究者らの人員は600人程度を見込み、23年春に一部、24年に本格開所を予定している。
福島県内には「楢葉遠隔技術開発センター」(楢葉町)や「福島水素エネルギー研究フィールド」(浪江町)などの研究開発施設が次々と整備されている。ただ世界レベルの新産業を福島から発信するには、既存の組織体制や研究分野の縦割りを排した新拠点が不可欠とされていた。
人材育成に向けては連携大学院制度を導入し、大学院生らの人材育成を推進する。福島大学が大学院の一部機能を同拠点内か周辺に移設する構想を示しており、東北大も「福島浜通り国際キャンパス(仮称)」を設立する構想をまとめた。小中高生や地元企業人材の育成にも貢献し、被災地における地場産業の底上げにつなげたい考えだ。
東日本大震災から12年となった被災地。インフラ整備や原発、防災、そして地域に生きる人々の現在とこれからをテーマにした記事をお届けします。