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 政府は海外から訪れる東京オリンピック・パラリンピック関係者の健康を管理するスマートフォンアプリの開発を急いでいる。名称は「オリンピック・パラリンピック観客等向けアプリ(仮称)」。大会期間中の新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、2021年1月に開発を始め、リリースは6月の予定だ。

 同アプリが注目を浴びたのはごく最近。2021年2月17日の衆院予算委員会で、立憲民主党の尾辻かな子衆院議員が同アプリを「神アプリ」と呼んで話題となった。アプリで健康状態を管理すれば入国時のワクチン接種や入国後の14日間の隔離を免除するのか――。アプリの運用を問う趣旨で「神アプリ」と呼称したようだ。

 アプリの運用は現時点で固まっていない。それどころか、早くも開発の遅れが見え始めている。アプリがオリパラの新型コロナ対策として機能するか、不透明な状況だ。

入国前から観戦者の健康状態を把握

 アプリは、観戦者やアスリート、報道機関など、訪日する大会関係者の健康状態を管理するもの。観戦者などがアプリに入力した健康状態を国がクラウド上の基盤で分析し、新型コロナウイルスへの感染を早期に見つける。

 新型コロナの感染が疑われる場合はアプリを通して警告し、関係機関への連絡を促す。陽性だった際は、厚生労働省の「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)」にアプリの情報を引き継ぐ。

アプリの概要。クラウド上の基盤を介して多くのシステムと連係する。
アプリの概要。クラウド上の基盤を介して多くのシステムと連係する。
出所:「オリンピック・パラリンピック観客等向けアプリ(仮称)及びデータ連携基盤の開発・運用・保守一式 調達仕様書」
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 アプリ利用者の位置情報は全地球測位システム(GPS)を使ってスマホ内に蓄積する。利用者の同意を前提に、体調不良時の誘導や陽性判明後の積極的疫学調査に使う予定だ。Bluetoothで他人との接触を記録・通知する接触確認アプリ「COCOA」も訪日関係者には併用させるという。

 滞在中だけでなく、入国前や帰国時の健康管理に必要な機能も備える。入国前の14日間と出国後の2日間に健康状態を入力させる機能や、入国前に「検査陰性証明書」を登録する機能、帰国時に日本国内で同証明書を取得するための予約機能などを盛り込む考えだ。

 出入国や観戦の際に必要な一連の事務手続きもアプリで効率化する。例えば外務省のビザ(査証)関連システムと連携してアプリ内からビザを申請できるようにする。検疫、税関、入国管理での手続き向けに本人情報をQRコードで表示する機能や、大会会場やホテルでの案内向けに健康確認を「○」「×」などで分かりやすく表示する機能も備える。

 アプリの開発費用はクラウド基盤とサポートセンターの構築を含めて約73億円。担当するのはNTTコミュニケーションズと数社で構成するコンソーシアムで、一般競争入札を経て受注した。調達した内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室(以下IT室)は開発費用を2020年度の補正予算から拠出するという。

 オリパラの開催要項はいまだ決定していない。仮に無観客開催となった場合でも、アプリはアスリートや運営関係者が使う。閉会後には入国者の健康管理アプリとして流用する想定という。