さながら「新電力ムラ」安易な救済は業界歪めるのでは

 今冬の電力需給逼迫は、業界各社の収益に大きなダメージを与えている。

 「毎日、数億円の損失が出ている」

 1月27日、経済産業省の総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会で、NTTの沢田純社長は、子会社が出資する新電力大手、エネットの経営状況をこう説明した。

 なぜ損失が生じたのか。多くの新電力が電気を調達する日本卸電力取引所(JEPX)でのスポット価格が急激に上がり、販売価格を超えて逆ざやが生じたからだ。1キロワット時あたり10円程度だった価格は、昨年末から上昇し、先月15日には251円をつけた。

 エネットの場合、電源構成(令和2年度)で卸市場に調達価格が左右されるのは全体の約3割。それでも「会社存続が危ぶまれるほど」(沢田氏)の危機をもたらす。新電力だけではない。九州電力や北陸電力でもJEPXの高騰が利益を奪う要因になった。

 分科会で、沢田氏がJEPXについて「(取引を一時中断する)サーキットブレーカーのような措置の検討が必要」と訴えたように市場のあり方を改善すべきとする声が浮上する。

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 しかし、それとは別に、事業構造に問題を抱える新電力もある。

 「転売とは言わないが、8割、9割、10割を市場から買い、それを売っている事業者もいる」

 分科会で、資源エネルギー庁の松山泰浩電力・ガス事業部長が指摘した。JEPXへの過度の依存を転売と表現したことは刺激的ではあるが、的を射たものだ。今回の高騰で最もダメージを受けたのは、そのような新電力であることは想像に難くない。

 一部の新電力からは救済を要望する声が上がる。自民党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟の活動や、河野太郎行政改革担当相が昨年12月に発足させたタスクフォース(TF)での議論は、それに呼応するような流れで進む。今月3日のTFは「(JEPXの)約定価格の遡及(そきゅう)的な見直し」や、卸売価格の高騰で生じた売り手の利益を買い手側に還元するよう緊急提言。これは一部の新電力の要望と重なる。業界関係者は「いくら何でも遡及は暴論だ。『原子力ムラ』ならぬ『新電力ムラ』が誕生したとすらいえる状況だ」と眉をひそめる。

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 電力自由化を柱とする電力市場改革は、業界に競争原理を持ち込み、電力価格の引き下げとサービス革新を促すことが目的だ。さらに2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロという目標も加わった。課題が山積する中、卸市場に依存し、付加価値を生み出さない「転売屋」の救済は業界を歪めるだけだ。政治はエネルギー安全保障のような大きな視点の議論に力を入れるべきだ。

 国際環境経済研究所理事で主席研究員の竹内純子(すみこ)氏は「(国は)電力自由化や温暖化対策を進めてきたが、エネルギー安全保障・安定供給は『あって当たり前』と考えてこなかったか。エネルギー安定供給は国の生命線だという意識が必要だ」と指摘する。(中村雅和)

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