FILM

 『アイヌモシリ』が描く現代のアイヌ ── マイノリティを知ることは自分を知ることにつながる

他に先がけて上映された渋谷ユーロスペースは、20代、30代の若い映画ファンで賑わっていた。長編2作目となる福永壮志監督の作品は、いまの日本が抱える問題を突き出すことと、観客を楽しませることを、見事に両立していた。

『アイヌモシリ』は、ニューヨーク・トライベッカ映画祭の国際コンペティション部門で「審査員特別賞」を受賞した、アイヌの人々と文化を描いた作品だ。

この映画のワンシーンにどきっとした。それは、阿寒湖畔の民藝店を訪れた観光客がアイヌの経営者に対して、日本語が上手ですね、と言うシーンだ。じぶんも同じ言葉を発してしまうかもしれない─。この作品の監督の福永壮志にそう伝えると、こんな答が返ってきた。

「あれは、和人(大和民族)の観光客から頻繁に言われる言葉みたいですね。アイヌの方からは、この映画は差別の話にしないでくれと言われていて、僕も悲しいお涙頂戴の話にするつもりはなかったんですけど、現代のアイヌを描くにあたって、ああいう外からの視点だったり言葉だったりは必要だと思って、いくつか入れました」

ここ最近は、多様性LGBTQについて考える機会が多い。けれどもこの映画を見ると、アイヌの問題を置き去りにしたままダイバーシティは語れないと感じる。

「マイノリティを知ることは、全体を知ることやじぶんを知ることにつながると思います。アイヌのこと、LGBTQのこと、在日コリアンのこと、そしてBLM(ブラック・ライブズ・マター)も、すべてつながっていて、じぶんに返ってくる問題だと思います」

ただし福永は、「でも社会派監督と言われるのは絶対にイヤです」と笑った。

「アイヌのことをなにも知らない方でも見てよかったと思えるような映画にしたいと思いながら撮りました。映画を見てからアイヌについて調べてくれてもいいし、アイヌについて知ることができてよかったという感想でもいい。間口は広く、奥行きは深い映画にしたつもりです」

確かに、この映画にはさまざまな側面がある。主人公の14歳の少年カントをはじめ、俳優ではないアイヌの人々が出演するあたりは、ドキュメンタリー映画の手法だと感じる。一方「光の森の洞窟」と呼ばれる場所で繰り広げられる場面は、アイヌの神話や世界観を表現したファンタジー映画のようでもある。また、ニューヨークのインディーズ映画界で名をあげた撮影監督のショーン・プライス・ウィリアムズによる、四季折々の阿寒湖の美しい景観にため息をつく映像作品でもある。

「僕が映画にはまったきっかけが、スタンリー・キューブリックだったんです。彼の映画は芸術性もすばらしいし、エンタメ性、大衆性もある。現代で人の心に響く映画を作るには、そこに社会性も必要だと思うんですね。それぞれの要素をもった映画を作りたいという意識があります」

社会に対するメッセージを、脚本やキャスティング、映像や音を工夫することでだれもが楽しめるエンターテインメント作品に仕上げる。あたりまえのようでいて、実は稀有な作品だ。

ON SCREEN

『アイヌモシリ』

北海道東部の阿寒湖温泉街に、アイヌ文化を発信する阿寒湖アイヌコタンという一角がある。ここで暮らす14歳の少年カントとアイヌ文化の関係を丁寧に描くことで、作品を見る者は次第に他人事ではなく、自身の問題だと考えるようになる。トライベッカ映画祭国際コンペティション部門で、日本の長編映画として初めて審査員特別賞を受賞。

全国公開中、公開劇場は公式HPよりチェック
http://www.ainumosir-movie.jp

福永壮志

1982年北海道生まれ。2003年に渡米、ニューヨーク市立大学ブルックリン分校で映画制作を学ぶ。初長編映画『リベリアの白い血』はロサンゼルス映画祭メインコンペティション部門で最優秀作品賞を受賞。米英のエージェントに所属しており、さらなる飛躍が期待される。

Photo 竹之内祐幸 Hiroyuki Takenouchi
Words サトータケシ Takeshi Sato

© AINU MOSIR LLC / Booster Project (Film stills)