かかわる人間の気持ちが如実に反映されているレクサス
ビジネスをやっているひとは、レクサスに学ぶところがありそうだ。それは、標語づくりのうまさ。全員をまとめるためにいま、「Always On」なる言葉を使って、クルマづくりを進めている。私にとって、ここがおもしろい点だ。
2020年に日本市場への導入15年目を迎えたレクサスは、言うまでもなく、高級車市場の一角に確固たる地位を占めるにいたった、と、思う。それでもレクサスにかかわるひとに言わせると、「まだまだ(シェアをとれる余地が残されている)」だそうだ。
米国市場に導入されてから16年後の2005年に日本市場でブランドの展開が始まったときは4ドアセダンの「IS」と「GS」、オープンモデルの「SC」がラインナップされていて、うちISとGSのみがレクサス専用に開発された車種だった。SCはすでに日本市場で「ソアラ」として販売されていた。
レクサスのおもしろいところは、そこをスタート地点に、年を追うごとにクルマの洗練度が上がっていったことだ。たとえば、セダンの「IS」をみても、2020年モデルと2019年モデルは、大きくちがう。
その背景にあるのが、2019年にLEXUS INTERNATIONALのプレジデントに就いた佐藤恒治氏の唱える「Always On」の精神なのだそうだ。「つねに改良を加え、これでいい、という到着点はない」とされる。
今回、IS300 F Sportに乗ってみて、トルクのたっぷりあるエンジンと、正確なステアリングと、快適な乗り心地による、全方位的なバランスのよさが印象的だった。
ホイールをサスペンションがわのハブキャリアへ取り付けるのに、従来のボルトとナットに代わり、ハブボルトなる一体型の部品をISで新採用したのも、ISの走りが改善された理由、と、説明される。
「ステアリングの切り始めがうんとスムーズになる」と、レクサス車の諸元性能すべてを統括する水野陽一氏は胸を張っていた。
ハブボルトを使うと、ホイールとハブキャリアがしっかり組み合うため剛性が上がるのがメリットだ。ドイツ車などではすでに採用しているメーカーもある。ISを皮切りに、レクサスでは、ハブボルト採用車を拡大していくそうだ。これも「Always Onの精神にのっとったもの」(水野氏)だそう。
いっぽう、LSもハンドリングと乗り心地が、従来と別もののように改善されている。LS500h F Sportは、ステアリングを動かすと繊細に動くシャシーと、なめらかな乗り心地を実現。
「(豊田章男)マスタードライバ−の意向を汲んで、テストコースを走りこんで仕上げました」とは、走行性能を統括するTAKUMIという立場の伊藤好章氏の言葉だ。
いぜん、前出の佐藤恒治氏が、プレジデントでなくエンジニアリングを統括する立場だったとき、「これからレクサス車をうんとよくします」と、”宣言”していたとおりの結果なのだ。レクサス車の魅力の第1点は、じつは、大量生産の工業製品でありながら、このようにかかわる人間の気持ちが如実に反映されるところにあると思う。じつは人間くさいプロダクトなのだ。
類のない世界を確立
LSのインテリアも、人間くさい。オーナメントパネルやドアトリムに、積極的に日本の伝統工芸を活かす手法など、マスプロダクトの域を超えようという努力が散見される。
LSの「EXECUTIVE」仕様には、金箔で知られる金沢の職人がプラチナ箔を手貼りしたオーナメントパネルと、銀箔糸を緻密に織り上げた西陣織のドアトリムを採用、というぐあい。
「ほのかな月明かりが照らす波の揺らぎを表現しました」などと聞くと、万葉の世界をつい連想してしまう。とってつけた感が薄いのもよく、最新の安全装備や快適装備とならび、ほかに類のない世界をうまく確立しているのに感心するのだ。
実際の交通状況に応じて車載システムが適切に認知、判断、操作を支援し、車線・車間維持、分岐選択、レーンチェンジ、追い越しなどを行う「アドバンストドライブ」と、自動駐車支援システムの「アドバンストパーク」を統合して、レクサスでは「チームメイト」と名づけている。
そのつど、車両がドライバ−の意思をきちんと確認しながら、操作支援をおこなうのがレクサスのコンセプトなので、クルマとドライバ−の関係をチームメイトと定義したと説明を受けた。これなどもレクサスの思想を際立たせる点で、興味ぶかい考えかただ。
自動車界の”文化部”としての側面
もうひとつ、ラグジュアリーブランドを標榜するからには、クルマだけ作っていてはいけない、という考えはレクサスにもあるようだ。特筆したいのは、自動車界の”文化部”としての側面。デザインアワードや、レストランなどにも積極的にかかわり、日本のブランドのなかでは、文化活動の熱心さにおいて突出している。
ミラノデザインウィークでのインスタレーション(一時的な美術展示)から、青山や日比谷のカフェレストラン「インターセクト・バイ・レクサス」というクオリティが高い施設にいたるまで、自動車メーカーとしては異例といえるほど、活動の幅は広い。
眼をほかのブランドに移すと、BMWはデザインアワードを設けていたし、アウディはこれからの都市のイニシアティブ(提案)のアワードに取り組んでいた。でもどちらもいまは撤退。
レクサスの活動はここでもAlways Onだ。ほんらいクルマは、都市や建築、さらに食や服と相性がいいはず。レクサスの活動はそのことを認識させてくれる。2013年からこのかた、新進気鋭のデザイナーを評価するレクサスデザインアワードに取り組んでいるなど(2020年はオンラインで開催)、レクサスは継続的に活動している。
このあとレクサスはどこへ向かうのか……じつは折りに触れて、私たちジャーナリストにちらりと体験させてくれる”未来”(のプロトタイプ)では、走りの楽しさをつねに追究するレクサスの主張がみなぎっている。プロトタイプについては秘密厳守ということで、詳細を書けないのが残念。
「電気自動車化されたら、4つの車輪にモーターを仕込むことで、これまでに体験したことのない、すばらしいスポーツ性を実現することが出来ます」
かつて、現プレジデントの佐藤恒治氏が語ってくれたレクサスの”未来像”の一部である。どんな時代になっても、レクサスの居場所がきちんとある。それをわかっているひとたちが手がけるクルマなのだ。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)