30代で資産3億円の会社員 上下両方の相場に備える
2021年の日本株相場 億万投資家の必勝戦略(下)
「上昇相場と下落相場の兆しを捉える自信が私にはない。だから、保有株のポートフォリオ(持ち高)をどちらの相場になってもいいような形にする」
こう語るのは、会社員投資家の御発注さん。日本の個別株の売買で利益を重ねて、30代後半で運用資産を約3億円に増やしたスゴ腕だ。2010年に起こした誤発注の失敗を忘れないために、ハンドルネームを今のものに改めた逸話でも知られる。
バフェットの手法を日本市場向けにアレンジ
株式投資を始めたのは、入社1年目の02年。最初は株主優待の獲得が目当てだった。大きな利益を上げるようになる転機となったのが、米著名投資家のウォーレン・バフェットの投資法との出合い。「収益バリュー(割安)株投資」と呼ばれる投資法を日本の株式市場に合う形にアレンジして実践してきた。
企業が将来に上げると予想される収益に比べて足元の価格が割安な銘柄を買い、大幅な値上がりを狙う。この点は、バフェットと同じだ。まず企業業績の伸びを予想し、5年後のEPS(1株当たり純利益)の予想値を算出する。そして、その予想値を使って算出した予想PER(株価収益率)が5倍以下の銘柄を売買してきた。
バフェットと異なるのは、売買する銘柄の規模と保有期間だ。バフェットは米アップルや米コカ・コーラなど、日本でも有名な米国の大企業の大型株に投資している。一方、御発注さんは主に時価総額500億円以下の小型株を購入する。保有期間も、バフェットが永久を標榜しているのに対し、御発注さんは「最長でも5年と考えて取引している」と話す。
17年からは徐々に投資法を変更してきた。株高で予想PERが5倍以下に収まる銘柄が見当たらなくなってきたからだ。銘柄の購入基準を予想PER7.5倍以下に緩めると同時に、それで高まったリスクを現金比率の引き上げで低減するという対応を取ってきた。
事前に打っていた手がコロナショックで奏功
19年には、収益バリュー株、高配当株・優待株、現金を3分の1ずつ持つというポートフォリオを採用した。18年10~12月に起きた株安で全体相場が下落基調に転じたと感じたものの、「相場が実際にどうなるかは予想できない」と判断したからだ。上げ相場と下げ相場のどちらに転んでもいい形を考え抜いた末、この構成にした。
高配当株と優待株を3分の1まで組み入れることにした理由は主に2つ。一つは、配当と株主優待というインカムゲイン(定期収入)が得られること。もう一つは、配当や株主優待のない銘柄に比べて価格が下がりにくいことだ。
このポートフォリオがコロナショックでも奏功した。暴落で日経平均株価が20年1月20日の高値から最大で約31.2%下落する中、企業の株主対応支援を手掛けるアイ・アールジャパンホールディングスなどの収益バリュー株をはじめ、保有株の下落幅は相対的に小さく済んだ。
「航空機や船舶のリースを手掛けていて、業績の低迷が長引くと考えたFPGなどは投げ売った。それでも、運用資産の減少幅は3月末時点で年初の1割にとどまった」と御発注さんは振り返る。
一方で、プールしていた現金を投入して、暴落で割安になった銘柄を買い向かった。金融機関向けに企業の信用リスク管理ソフトを開発・販売する情報企画、漫画やイラスト、アニメの制作ソフトを開発するアートスパークホールディングスなど、「コロナ禍を追い風にして業績をさらに伸ばす」と考えた銘柄を買った。
「一時は運用資産の全てを株で持つ状態になったが、相場の低迷が長引く可能性に備え、1割分を売却した。その後に相場が急回復したので、後で振り返れば、この売却は失敗だった」
1~2月の調整を警戒して投資スタンスを維持
ショック後に急回復した相場では、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の持ち株会社である日本郵政を購入した。「かんぽ生命の不正契約の問題などが片付けば、業績が回復して伸びる」との見立てだ。
21年の相場については楽観しているものの、「相場の行方は予想できない」というスタンスは変えない。さらに、「1~2月には全体相場が急落することが多い」とも警戒する。そこで運用資産の2割超分の株を売却して、収益バリュー株、高配当株・優待株、現金を3分の1ずつという構成に戻す方針だ。
「相場が急落したら、それで割安になった銘柄を買い向かう」と話し、日本郵政の買い増しやPBR(株価純資産倍率)の低い銘柄の購入を視野に入れている。
(中野目純一)
[日経マネー2021年2月号の記事を再構成]
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2020/12/21)
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