演出を削ぎ落とし、音楽を解像度高く、鮮明に伝えるというコンセプトから、「THE FIRST TAKE」発のヒット曲や様々なアーティストの認知が広まっている。
真っ白な背景のスタジオ。口元や手元のアップを交えてアーティストの姿をとらえた映像からは、ひりひりするような緊張感が伝わってくる。オンラインなのに臨場感があるという、斬新なスタイルだ。
「THE FIRST TAKE」運営チームによれば、世界的に見ても音楽コンテンツとYouTubeの相性は良好で、YouTube上でほかにはない音楽番組を立ち上げたかったという。
「たとえばMTVアンプラグドなど、様々な音楽コンテンツを研究して、いろいろなアイデアを出しました」(TFT運営スタッフ)
クリエイティブ・ディレクターの清水恵介氏によると、その議論の結果、「アーティストの一発撮りパフォーマンスを撮影すること。そうすることで、ミスなどの予定調和ではない要素が映しだされて、ドキュメンタリー性が高くなり、その結果、ライブ体験に近い映像体験になる。高画質、高音質という臨場感を伝える要素に、ドキュメンタリー性を加えることで、"音楽の解像度"を最大限に高めることができるのではないかという結論に達したんです」
当初はこのスタイルにアーティストの賛同が得られるか不安だったという。けれども、第1回にadieu(上白石萌歌)が野田洋次郎の作詞・作曲による『ナラタージュ』という楽曲を顔出しにて披露したことや、LiSA「紅蓮華」の圧巻のパフォーマンスが話題となり、以後、様々なアーティストが出演してきた。
順調にチャンネル登録者数や再生回数を伸ばしていくなかで、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の影響で音楽チャートが激変する。それまであまり知られていなかったアーティストが、YouTubeやTikTokから火がついてチャートインするようになったのだ。「THE FIRST TAKE」からもDISH//(北村匠海)の『猫』やYOASOBIの『夜に駆ける』などのヒット曲も生まれ、同時にチャンネル登録者数も劇的に増えていった。
興味深いのは海外からの視聴が約3割を占めていることで、運営チームによればグローバルに発信することは当初から想定していたという。日本のアーティストを海外に認めてもらうことと同時に、海外のアーティストにも出演してもらうことも進めていく。
「韓国のStray Kidsに出演してもらったときには、東京とソウルをZoomでつないで、すごく時間をかけて収録しました。試行錯誤しながら時代に寄り添い、丁寧にアップデートしていきたいです」(清水氏)
いまは世界中の国々が鎖国状態であるけれど、オンラインなら行き来は自由だ。今後は、「THE FIRST TAKE」というプラットフォームを使って、様々な分野に幅を広げていきたいという。
Words サトータケシ Takeshi Sato