三菱UFJ銀行・半沢次期頭取「現場と距離近く」 一問一答
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は24日、傘下の三菱UFJ銀行の次期頭取に同行の取締役常務執行役員の半沢淳一氏(55)を起用する人事を発表した。同日、都内で開いた記者会見には半沢次期頭取、亀澤宏規MUFG社長、三毛兼承三菱UFJ銀頭取が出席した。主なやり取りは以下の通り。
世代交代を進める
――副頭取と専務13人追い抜く異例の人事。半沢氏を選んだ狙いは。
亀澤社長 一言でいえば世代交代、若返りを一段と進めるということだ。現在、金融機関は100年に1度といわれる改革を進めないといけない時期ということで私自身、今年4月に就任したと認識している。構造変革をより一層進める必要があると認識し、今回の人事になった。トップ交代で非常に重要なのは後進が育っているかだ。ありがたいことに半沢という人材がいて十分な力量を兼ね備えているため世代交代を順当に進める判断をした。
――頭取に就任する率直な気持ちと抱負を。銀行の課題をどう認識しているか。
半沢次期頭取 私のような若輩者が大変光栄だと感じると同時に責任の重さを感じている。まずはこのコロナ禍において金融としての責務を全力で果たす。安全・安心、また安定的に金融システムを提供し続けることを通じて、お客様、社会を支えるということにしっかり取り組む。少し長めにコロナ後を展望すると、金融界は変革と躍動の時代に向かうと私は前向きにとらえている。例えば、顧客との取引でデジタルという強い味方を活用し、安心・安全と利便性を両立するサービスの提供が従来よりしやすくなる。今までと同じ取り組みならデジタルシフトで時代をリードする存在になれないという危機感がある。立ち止まらずに走り続けなければ激しい変化の時代に適応できないということもあり私のような若手が選ばれたと思っている。
お客様起点、現場起点で若い人間の声もききながらしっかり対応したい。 超低金利下で粗利益が着実に減っている状況に見合う体制ができていない。しっかり効率化し、損益分岐点を下げるような収益体制ができないということを問題意識として持っている。非対面取引によるお客様との接点を増やし、取引を活性化させることがまさに商業銀行として求められるという課題認識をしている。
――三毛氏は前任の頭取の体調悪化に伴い突如就任した。約3年半の功績と新頭取に期待することは。
三毛頭取 取引先や社員としっかり向き合うことにエネルギーを注いだ。その上でMUFG再創造イニシアチブを実行することで待ったなしの構造改革に注力してきた。構造改革を成功させるには銀行のカルチャーを変えないといけない。人事制度改革をはじめとする様々な改革を進め、100回以上にわたる社員との直接対話を通じて構造改革の必要性や変化に挑戦する重要性を訴えて社員の意識改革に取り組んできた。ようやく大きなものが動き始めた手応えを感じている。直近は全国銀行協会会長としてコロナ対応で、社会にとって必要不可欠な金融サービスを提供し続けること、コロナの影響を受けた顧客への資金繰り支援に最優先で取り組んできた。
インドネシアのバンクダナモンの買収で長年取り組んできた東南アジア諸国連合(ASEAN)のフランチャイズは完成したし、バランスシートコントロールにより「量」から「質」への転換は進んだが、国内のリテールビジネスモデルの見直しを含めたデジタル・トランスフォーメーション(DX)はまだ道半ばだ。経費率も高いまま。足元の株価をみても乗り越えなければならない課題はまだ多々ある。そういう厳しい中でバトンを引き継ぐことには申し訳ない思いもあるが、半沢は大変強いリーダーで、まさに激動の時代にあって大きな船のかじ取りをまかせるにふさわしいリーダーだ。年次にかかわらずチャレンジする気概と力のある人はどんどん登用すると言ってきたが役員も全く同じだ。半沢新頭取が果敢に柔軟なかじ取りで銀行の変革をさらに力強く推し進めてくれると確信している。
「コストを下げる」
――MUFGは日本最大の銀行だが日本最強の銀行か。この銀行の弱さはどこでどうすれば強くできるのか。
半沢次期頭取 国内の顧客基盤、グループ総合力、グローバルネットワークに強みがあるが、これをしっかり使い切れていないのではないか、そういう意味で収益性の弱さが見えるとの指摘だと理解する。まさにこの強みをしっかり生かして、それを成果に変えていきたい。具体的にはしっかりお客様と向き合い、お客様の課題を認識し、それに対する課題解決型のサービスにこだわることだと思っている。それがしっかりできれば、まだまだ収益を上げられる。
――なぜMUFGの経費率は高いのか。どのように下げるのか。
半沢次期頭取 経費率が高い要因は語り切れないが残念ながら多い。本部の要員が他のメガバンクより多く、海外でのボリューム増加に伴うコストも高い。グローバルネットワークが広がるなか、それにしっかり対応しないといけない。1つずつ他メガとも比較しながらコストを下げる努力を継続的に進める。
――副頭取や専務を経ずに頭取になる抜てき人事だが若さをどう経営に生かすか。
半沢次期頭取 やはり現場、お客様との距離感を短くしたいというのが正直な思いだ。銀行の戦略を本部の部下に任せるのではなく、自ら現場の行員に説明する機会を増やしたい。現場の声を吸い上げ、本部や経営が考えたことについて、どういう意見を持っているか取り込みたい。現場から出てきた声を経営が受け止める体制をつくって施策を変えていく。現場が「自分たちも声をあげれば変わっていく」という経験をしたほうがよい。経営から大きな変革として進めるものと現場起点の変革の両方で活性化につなげたい。
――自身より年次が上の経営陣とどのような体制をつくっていくか。
半沢次期頭取 先輩であれ後輩であれ、変革の思いと方向性をしっかり共有して実行に移す。そういうメンバー編成しかない。
――グループ全体で経営の若返りが進む。来春、新しい中期経営計画を策定するが、改めてどのような経営チームをつくりたいか。
亀澤社長 年次でいえば、持ち株会社の6人の事業本部長のうち4人は私より年次が上の先輩だ。中期計画は非常に生産的な議論ができている。各自がプロフェッショナルにそれぞれの分野でそれぞれの役割を果たしていく。国内はリテール分野を中心としたデジタル化、海外は「量」から「質」、全体では構造改革・カルチャー改革が必要だ。この大きな課題について全員で議論している。
デジタルシフトで成長可能
――商業銀行は構造改革が終われば成長軌道に戻れるのか。またMUFG全体の中で商業銀行の位置づけはどう変わるのか。
亀澤社長 預金を集めて融資するという伝統的な商業銀行は金利がほぼなくなり、規制コストがかかっている。ここが成長ドライバーになるのは難しい。損益分岐点を下げ、コスト構造を変えるのが非常に重要だ。国内リテール分野は昔からのやり方をどう変革するかが重要だ。コスト改革と同時に顧客と新しいタイプの接点を持てるようにすることが重要でチャンスでもある。海外はアジアが引き続き収益ドライバーになる。先進国は金利がつぶれて、同じような成長は難しくなるためより効率化しないといけない。顧客基盤とグループの総合力があるので、デジタルとソリューションを組み合わせて提供できれば伸ばせる。
半沢次期頭取 商業銀行がマクロで伸びるかといえば厳しい。だが、今回のデジタルシフトで個別銀行としては成長可能だと思っている。
――経歴のなかで一番印象に残るエピソードと一番の失敗談は。
半沢次期頭取 印象に残っているのは三菱信託銀行との持株会社方式による経営統合だ。その後、三菱東京フィナンシャル・グループとUFJホールディングスの統合にも事務局として携わった。三菱信託との統合では参考になる持ち株会社のあり方が日本にはなかった。どのような仕組みにするか、持ち株会社の役割をどうすべきかということを一生懸命議論した記憶がある。その後、経営企画部長としてグループの一体経営をさらに進化させるという経験をした。これがグループ経営のあり方を考えるにあたって非常に大きな経験になった。
失敗談は、支店で働いていた若い頃、取引先のジャム製造会社に年末のあいさつに行ったときのことだ。銀行に置いてあった粗品を確認せずに持参したら、中身が他社製のジャムだった。本当にしゃれにならない。「自分たちの商品を分かっていないのか」とお客様からも上司からも怒られた。お客様の取扱商品や状況を知り尽くさないといけないと身につまされた。
「名字は必ず覚えてもらえる」
――「半沢」という名前で注目されているがどう感じているか。
半沢次期頭取 ドラマは2回あったが、第1弾のときは(放送翌日の)月曜日の会議で「半沢、来週どうなるんだ?」とからかわれ、あまり好ましくないなと思っていた。ただ3年前に名古屋に営業本部長として着任した際に、おかげさまで名字は必ず覚えてもらえて、非常に営業しやすくなったことはありがたかった。
――人気小説・ドラマの影響もあり、リアルの銀行でも「半沢頭取誕生」と注目度と期待値が高まっている。決めぜりふにかけて、この期待を何倍返しにするか。
半沢次期頭取 ドラマのおかげで銀行が注目を受けているのは非常にありがたいと思っている。ただ何倍返しできるかは4月以降、着任してからお答えさせていただきたい。