「日本初のクリスマスツリー」はいつ⇒「江戸末期(1860年ごろ)」説が有力? 起源を探った

プロイセン公使、女子学院、明治屋... クリスマスツリーを始めたのは誰?
イメージ写真
イメージ写真
kazuma seki via Getty Images

今日はクリスマスイブ。

ツリーや装飾は日本で当たり前の光景になっているが、クリスマスはキリスト教の文化で、海外からやってきたものだ。

「日本初のクリスマスツリーや装飾」はいつか。クリスマス文化は日本でどのように根付いたのか。起源を探ってみた。

クリスマスの文化史』(2013年 / 若林ひとみ / 白水社)は、「日本では1860年にプロイセンの公使オイレンブルクが、杉、竹、椿の木などを使って初めてクリスマスツリーを飾った」と紹介している。

十九世紀初頭にはプロイセンの首都ベルリンの上流階級にクリスマスツリーが浸透していたから、オイレンブルクがクリスマスツリーに執心したのもうなずける。 このオイレンブルクは、イギリス軍総司令官夫妻やオランダ総領事などを招いて、盛大なクリスマスパーティーを開催した。

サンタクロースの謎』(2001年 / 賀来周一 / 講談社+α新書)でも、日本でクリスマスツリーが飾られるようになったきっかけとして、オイレンブルク公使の例をあげている。ただし、ツリーを飾った時期については「安政6年(1859年)」と紹介している。

(公使オイレンブルクは)江戸の植木職人にクリスマス・ツリーにふさわしい木をあちらこちら探させたらしい。その甲斐あって、みごとな木が見つかり、これを室内に飾ってイギリス公使オールコックや通訳ヒュースケンら在日の外国人を招いて祝会を開いた。

部屋の天井にまで届くような大きな木であった。これが今日われわれがクリスマスになると飾るツリーの一般的なモデルになったというわけである。

「日本初のクリスマスツリー」は、1860年ごろにオイレンブルク公使が飾ったという説が有力のようだ。

オイレンブルク公使
オイレンブルク公使
Bildagentur-online via Getty Images

では、「日本人による初のクリスマスツリー」はどうか。

愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年 / 堀井憲一郎 / 講談社現代新書)には、次のような記述がある。

日本人による明治以降の最初のクリスマス(※)は、1874(明治7)年、この築地居留地内にあった学校内で行われた、とされている。

(略)

女子学院(いわゆるJG)の発祥は、 1870(明治3)年に築地居留地に建てられた「A六番女学校」にある。 1874年に原胤昭(はら・たねあき)らがそこで初めてのクリスマスを開いた。

(※同書の中で「これが日本人による明治期の初めてのクリスマスかどうかは、きちんと検証されているわけではない」ともつづられている」)

ここで出てくる原胤昭は、1874年にキリスト教に入信し、のちに明治時代の代表的なキリスト教社会事業家となる人物。

『愛と狂瀾のメリークリスマス』は原胤昭が開いたクリスマスについて「浅草方面の花簪(かんざし)屋で買い集めた花簪で会場を飾り、クリスマスツリーもしつらえ、落し幕で隠した」と説明。クリスマスツリーが飾られたことが紹介されている。

ネットでは明治屋説も?聞いてみた

明治屋
明治屋
明治屋提供

ネット上では、12月7日はクリスマスツリーの日とされている。ちなみに、日本記念日協会の認定・登録はされていないため、非公認だ。

由来は、1886年12月7日、横浜・明治屋で「日本人による初のクリスマスツリーが飾られた」ということになっている。

そこで、実際に明治屋に確認してみた。

広報担当者によると、1885年の創業時から、店舗で「クリスマス飾り」と呼ばれる装飾を始めたという。明治屋100年史には、次のように記されている。

「創業以来、明治屋の宣伝広告活動の一環として『クリスマス飾り』がある。これは創業者磯野計が青春時代(当時20代)に英国留学の際、雪の降る街ロンドンの店々で眺めた『クリスマス飾り』にヒントを得て、横浜で明治屋を創業以来、自分の店で始めたもので、実にわが国クリスマス大売出しの元祖である」(取材に基づいた原文抜粋)

資料に出てくるのは「クリスマス飾り」という言葉で、「クリスマスツリー」や「クリスマスイルミネーション」という表現は、資料や記録に残っていないという。そのため、クリスマス飾りとしてツリーが飾られていたかどうかは、定かではないとのこと。

一方で「クリスマス大売り出し」という文化を日本で広めたのは、明治屋で間違いないそうだ。

今ではスーパーのイメージが強い明治屋は、もともと船舶納入業(シップチャンドラー)として創業。その後すぐに、国内向け小売事業も始めたという。

店を構えた横浜港周辺は当時、日本の窓口として多くの外国人が行き交う場所で、広報担当者は「外国からの船員さんに喜んでもらえるように(クリスマス飾りを)始めたようです」と説明する。

明治屋が1900年、銀座に店舗をオープンしたのをきっかけに、他の店舗でもクリスマスを商売に取り入れ始めたという。

広報担当者は「多くの銀座の店が明治屋にならって『クリスマス飾り』を盛んに行うようになったといわれており、 当時『明治屋のクリスマス飾り』は銀座名物の一つにもなったそうです」と説明する。

大正や昭和初期に撮影されたという明治屋の写真を提供してもらった。

「MERRY XMAS」の文言にきらびやかな装飾を施した店内や、店舗の外にクリスマスを意識した大きなバルーンをかざした様子が写っているのが確認できる。

東京支店店内のクリスマス・デコレーション(大正11年:1922年)
東京支店店内のクリスマス・デコレーション(大正11年:1922年)
明治屋提供
東京支店クリスマス飾り(昭和5年:1930年)
東京支店クリスマス飾り(昭和5年:1930年)
明治屋提供

過去に使われた「クリスマス売り出し」の広告(年代不明)には、装飾されたツリーのイラストが描かれていた。「吉例(きちれい)のクリスマス飾りは、例年より一層美麗(びれい)に出来ました」と書かれている。

明治屋のクリスマス広告(年代不詳)
明治屋のクリスマス広告(年代不詳)
明治屋提供

注目記事