他者に対する本当の慈しみとは 作家・赤坂真理さんに聞く(上)

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小説家の赤坂真理さん=東京都千代田区で2020年11月24日、長谷川直亮撮影
小説家の赤坂真理さん=東京都千代田区で2020年11月24日、長谷川直亮撮影

 新型コロナウイルス禍で近しい人と過ごす時間が増えた今年。妻や夫、恋人らとの関係について、改めて考えた人もいるだろう。他方で近年、#MeToo運動や同性カップルのパートナーシップ制度、夫婦別姓を巡る動きなどで、愛や性の常識は、大きく変わりつつある。作家の赤坂真理さんは、新刊「愛と性と存在のはなし」(NHK出版新書)で、ヘテロセクシュアル(異性愛者)とされる「一般的な」性的指向の人々が抱える問題を、自身の内奥から思索した。私たちの生に根本から問い直しを促す赤坂さんの言葉を、上下2回でお届けする。(上)は、現代日本で男性性の抱える困難が主なテーマだ。【聞き手・鈴木英生】

想像を絶した男性の性

 ――赤坂さんの新刊は、男性の性や身体感覚について、女性があまりにも知らないと気づかれたことを話の糸口にしています。

 ◆「自分が男性のボディーを持っていたら何をどう感じるか」と想像してみたことがあります。そのとき、正直言って、想像を絶したんです。猫になる想像のほうが楽だったくらい。それくらいわからないものとごく普通に生きているのだと気づいたとき、男性に畏敬(いけい)の念をいだきました。彼らを本当に尊重しようという気持ちも持てました。今、性や性差を巡る議論は、ほとんどジェンダーの話になっています。それは権利や機会を平等にしようという話になります。でも本当に権利を平等にして、それですべてが済む話なのか、私にはわからないのです。工学部に男子学生が多い理由を、ジェンダーの刷り込みがそうしてきたからということだけに還元できるのか。元々の「好み」というのも、ずいぶんと身体感覚から来ていると思えます。考えてみれば当たり前のように思えるのですが、そういう想像力を、社会は持とうとしない。

 性について語ろうとすると、まずは「性的多様性を認めましょう」という話からになる。それもいいことではありますが、マイノリティーの体感を本当はわかっていない。異性の体感だってわかろうとしないように。そこがないままでいくら話をしても「権利」の話にしかならなくて、他者に対する本当の慈しみは出てこないように思うんです。

 ――最近は、恋愛や性的関係について、「草食系」だったり、女性からのアプローチを待ったりするような男性も目立ちます。男性側に、「女性に対して能動的に動くと加害者になりそうで怖い」という意識もある気がします。もちろん、男性が加害者の性犯罪は、実際にたくさんあって、誰もがそうとは言えないのですが。

 ◆心ある男性ほど恐れるようになっている。合意のうえで性的関係を持ったと思っても、実はそうではなかったと、曖昧なサインを読みきれなかったりして、下手をしたら訴えられるかもしれない。極端に言えば、男性も結婚までセックスをしないのがいいという、昔の女性みたいな話にもなる。ところが、女性には性的な場面で…

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