- ポスト
- みんなのポストを見る
- シェア
- ブックマーク
- 保存
- メール
- リンク
- 印刷
内戦が始まってから来春で10年を迎える中東シリア。今も国土の一部では紛争が続き、犠牲者、負傷者が絶えない。そんなシリアの南西部に住む、紛争で左腕を失い重傷を負った一人の青年の治療を手助けしようと、NGO「Team Beko」(チームベコ、事務局・東京都清瀬市)が協力を呼びかけている。来年のえとの丑(うし)にちなみ、青年が描いたシリアの牛をあしらった年賀はがきを制作。売り上げを青年の治療費にあてる計画だ。【鵜塚健/統合デジタル取材センター】
砲撃で、内臓えぐられ重傷
シリアでは2011年に民主化運動「アラブの春」が起こったが、アサド政権がこれを弾圧。その後、外国勢力が入り込み、過激派組織「イスラム国」(IS)も一時猛威をふるい、混乱が加速した。19年にISの拠点は消えたが、北西部に反政府勢力の一部が残り、今も不安定な状態だ。これまで数十万人が犠牲になり、約1100万人が難民・国内避難民となった。
チームベコの代表、佐藤真紀さん(59)によると、南西部ダルアーに住む青年、ブラヒさん(20)は13歳の時、ロケット弾攻撃を受けて自宅が倒壊。家族は無事だったが、ブラヒさんは左腕を失い、内臓がえぐられるなどして重傷を負った。母親らとともに隣国ヨルダンに逃れ、現地の病院で緊急治療を受けた。17年に周辺の治安が比較的安定したため故郷に戻り、現在は父母やきょうだいと一緒に暮らすが、仕事がなく、医療費が足りないという。
シリア国内では内戦による混乱に加え、アサド政権を敵視する米国による経済制裁の影響で、物価が大幅に上昇。世界保健機関(WHO)によると、シリア国内では約半数の医療機関が機能しておらず、医療物資が不足している。多くの医師や看護師が国外に流出し、医療状況は深刻だ。
ブラヒさんは内臓をひどく損傷し、一時は人工肛門をつけて生活していた。今も腰や左足などが痛むという。今後も10回にわたり手術が必要だが、治療費や病院がある首都ダマスカスまでの交通費で、約3000ドル(約30万円)かかるという。
佐藤さんは、14年にヨルダンのシリア難民キャンプを訪れた際、避難していたブラヒさんに出会った。その後も何か支援できないか模索する中で、ブラヒさんが描いた牛がちょうど来年のえとにあたることから、年賀はがきを制作して売り上げを治療費にあてることにした。はがきには、口にオリーブの葉をはさんだ赤い牛の絵が描かれ、英語とアラビア語で「明けましておめでとう」と書かれている。牛の横には、以前佐藤さんが支援していた隣国イラクの小児がんの少女(その後死亡)が描いたナツメヤシの絵も添えられている。
佐藤さんは1994~96年に国際協力機構(当時・国際協力事業団、JICA)の青年海外協力隊としてシリアに赴任し、タイヤ製造業の指導に当たった。以降、長くイラクやシリアの子どもたちを支援する活動に関わり、19年9月に、シリアの子どもたちを医療面から支えるためチームベコを設立した。今春からシリアの小児がんの少年2人を支援するプロジェクトも展開している。
「ベコ」の名称は、佐藤さんが支援活動を行っている東日本大震災の被災地・福島の民芸品赤べこ(赤い牛)から名付けた。疫病や災厄を防ぐとされる赤べこを、佐藤さんはシリア国内やヨルダンのシリア人難民キャンプにも持参し、現地の子どもたちに色付けしてもらい、福島に届ける活動も展開している。ともに苦しむシリアと福島をつなぐのが目的だ。
佐藤さんは最近もブラヒさんとオンラインで会話した。ブラヒさんは一時逃れたヨルダンで、現地のNGOの支援を受けてコンピューターの基礎を学んだ。ブラヒさんは「今後は外国でコンピューターを本格的に学び、携帯電話の会社を作るのが夢。シリアの若者に希望を与えたい」と話しているという。
佐藤さんは「大型の支援は国や大規模団体が実施するが、隙間(すきま)に取り残されて苦しんでいる人も多い。たとえ1人の青年であっても助ける意味は大きい。シリアへの関心が薄くなる中、未来を見据える若者を応援したい」と話している。
年賀はがきの絵柄は2種類あり、10枚1500円で、20枚以上は割引。申し込み、問い合わせはホームページ(http://teambeko.html.xdomain.jp/team_beko/postcard.html?fbclid=IwAR1hn6P6BKBA5D0TFkOtflsujEUBCoUO-l4Z_n9DQUf7yHFrJSBBDjzT9OI)またはメール(info.teambeko@gmail.com)へ。申し込みの締め切りは12月12日。