採用の基準における「もっとこうしておけばよかった」

中嶋汰朗氏(以下、中嶋):志水さんはいろんなスタートアップをご支援される側であり、スタートアップを経営される側でもあり、いろんな情報が入ってくると思います。どのスタートアップも人を求めていると思いますが、ご自身でも改めて採用の基準などで「もっとこうしておけばよかった」と感じられることはありますか? 

志水雄一郎氏(以下、志水):私たちはハードシングスが中間審査ぐらいにあったという話をしましたけど、その時に全メンバーにヒアリングをしました。そしたらやはり、ミッションとかバリューがしっかりしていないという話がすごく挙がっていました。

そこで、全社員のプロジェクトで半年間ぐらいかけてバリューを生み出し、最後は経営判断として私がこれを守る会社と決めて。それからそこに紐付いた戦略・戦術・KPI・PDCAしか回さないと決めてから、組織も会社も強くなったし、採用も強くなりました。

まさしくそれが採用につながる、と。本当にミッション・ビジョン・バリューの体現者が選考するし、体現していない人は通らないとなった瞬間に、離職率も下がった。

中嶋:なるほど。

志水:なぜやるかの理由もきちんとあるし。あと私たちの事業は、隣の芝生が青く見えるような情報を取ったほうがうまく回るんですよ。それをお届けする事業だから。

中嶋:なるほど! 確かにそうですね。

志水:ただ、次にあるのは自らが青いのかって。これが青くないと論理破綻してくるんですよ。

中嶋:(笑)。

志水:そういうことも含めて、自ら変わらないといけないし進化しないといけない。これを一緒にやれるメンバーになってきたので、いろいろ難しいこともあったけどIPOもできたし、コロナの影響を受けながらもしっかり伸ばせる事業を作れていると思いますね。

大企業病から脱するための、ピエロみたいな業務

中嶋:臣さんは、ヤフーの時に「爆速」ってあったじゃないですか。

村上臣氏(以下、村上):はい、ありました。

中嶋:ヤフーでさえあんなことをやるんだと、当時は驚きました。臣さん、爆速Tシャツ着ていましたよね。

村上:あれねぇ。本当は着たくなかったんですけどね。

中嶋:(笑)。でもそれは経営陣の1人として、そこまでやって変えようというのがあったわけじゃないですか。

村上:そうです。一番クリティカルだったのは「ヤフー、大企業病になっちゃったよね」と言われて、経営は変わりました。

それで何をするかと言ったら、もうスタートアップのように、とにかく速くしなくちゃいけないと。そこを変えるためには、何度も言って日々言って、それでも言い続けないと変わらない。何千人もの会社を変えようと思ったら「バカじゃん」って思われてもわかりやすいTシャツ着たり、若干ピエロみたいな業務もあるわけですよ。

中嶋:(笑)。

村上:それはもうしょうがない。でもそれをやることで、周りや取引先にまで広まっちゃって。逆に提案書の依頼が「爆速で検討お願いします」とか言われちゃうぐらいになって(笑)。

中嶋:ある種、社外にもそのカルチャーがちゃんと染み出すということですよね。

村上:やりすぎたと思いつつも、それぐらい勢いがいるし力が必要な作業ですよね。

ヤフーの“爆速”誕生秘話

中嶋:そもそも「大企業病になった」と言われていたのは、社内の誰もが認めるぐらい、そういう状況だったんですか。

村上:当時、宮坂(学)社長を中心とした経営陣で「事業をどんどん新しくしていくためには何をしよう?」って振り返ったんですね。そうしたら、意思決定や承認プロセスが長すぎると。新しいサービスを立ち上げるのに、承認ステップが8つあったんですよね。

「これは多すぎる」という話になって「まずこれを減らそう」というところから始まり、議論をしている中で、たまたま“爆速”というキーワードが出てきて。それがみんなピンときたので、わかりやすいから社内でも使おうということがあったんですね。

中嶋:臣さんは改めて、ワーディングの重要性を誰よりも感じたんですね。

村上:そうですね。偶然の産物ではありますけれども、非常によく機能しましたよね。

中嶋:社外の僕でさえ、パッと浮かんでくるぐらいなので。けっこうインパクトは強かったと思いました。臣さんで言うと、赤いTシャツ着ているのが、まだ僕の頭の中に(笑)。

村上:初期の頃に、テレビ東京のWBSで今より髪も肩ぐらいまで長くて、ロン毛の男が赤い爆速Tシャツ着て社内を歩いている感じで。

中嶋:(笑)。ヤフーを象徴する写真に思いましたけどね。

村上:執行役員って書いてあるから「何なんだヤフーは」と思いますよね。

IT企業には、グローバルを目指してほしい

中嶋:いや、ごめんなさい。あっという間に時間が近づいてきて、あと7分ぐらいしかない。

これまでの話で感じたところとしては、ユニリーバさんやリンクトインさんは、グローバル企業だから違う世界だと思っていた部分がすごく変わってきて。

本質的にやっていることは一緒だと。俺らよりちゃんとやっているという。今、けっこう情けなく感じてきてですね。とりあえず臣さんのおっしゃるように、カルチャーを体現する人間を決めて、いろいろやろうかなと思いました。

最後みなさんからもコメントをいただきたいです。「採用のベストプラクティス」というところで、今日出てきたカルチャーの話は非常におもしろかったと思います。スタートアップだからというよりは、採用全般を改めて一番大事にしないといけないと。

スタートアップの起業家はいろんな悩みがあると思います。採用だけではなくてそれぞれの状況、ファイナンスとかコロナとか、事業がうまくいっていないとか、そういう状況がある中で、採用をする時に「これは必ず思い出してほしい」というポイントをみなさんに1つお聞きしたいです。臣さんいかがでしょうか。

村上:はい。やっぱりIT企業は、せっかくなのでグローバルを目指してほしいと思うんですよね。今はコロナの状況で難しいですけれども、日本で働きたい海外の人はけっこう多いんですよ。さらに、日本語がしゃべれる人は100万人以上いると言われています。なのでそういった部分も利用しながら、グローバルで戦えるチームを作ってほしいです。

ただ、少なくとも日本語版と英語版を同時にリリースしましょう。アプリをやられているゲーム会社とかあると思いますが、英語版を出しておくだけで、意外とそっちでチャリンチャリンしたりするワケですよね。ちょっとの手間で機会が大きく広がることはあるので、少しずつでもいいからやって成功体験をつかんでほしいと思っています。

中嶋:ありがとうございます。僕自身も今まで意識できていなかったポイントなので、ぜひ今後やっていきたいと思います。

ユニリーバ島田氏が語る、これからの時代に必要な4つの「PC」

中嶋:では島田さん、お願いします。

島田由香氏(以下、島田):改めて最後にお伝えしたいのが、今日ダイバーシティのお話がありましたけど、ダイバーシティは男女だけの話ではないので。性別としてのジェンダーが仮に男性だけだったとしても、それが別に悪いわけじゃない。

ジェンダーだけで見たら単一かもしれないけど、そのバックグラウンドにものすごいダイバーシティがあるとか、強みになるダイバーシティがある。共通しているのがミッション・ビジョン・バリューのところで、私たちもやっぱり価値観とかPurposeをすごく大事にしている。そこが一緒であれば、あとは違っていてもいいんだと考えてもらいたいです。

もう1つは、採用と言った時に、必ずしも正社員じゃなくてもいいと思うんですよ。

村上:そうですよね。

島田:ユニリーバも7月17日から、副業の人と一緒に働くことをスタートして、WAAP(Work from Anywhere & Anytime for Parallel careers)という仕組みを作りました。私自身も雇用はこれからどんどん変わっていくと思っているし、必ずしも正社員として、いわゆる保険から何から全部やるかたちではなくて、一人ひとりの能力や強みを生かす。

スタートアップのみなさんもそういう採用もすでに始めていらっしゃると思いますので、何を見るのかと言ったら、やっぱりその人のパッションだと思うんですね。それからケイパビリティ。私は「PC」だけあればいいといつも言っていて、パソコンがあればというPC、パッション(Passion)とケイパビリティ(Capability)のPC、情熱と能力をまとめてParallel CarrierもPCと言えます。

これがあればいいと思っているんですね。きっとスタートアップのみなさんもやっていらっしゃると思うので、私は逆に学びたいと思いました。どうもありがとうございました。

採用にこだわれるチームこそ、日本でも世界でも勝てる

中嶋:ありがとうございます。志水さん、お願いいたします。

志水:先ほどバリューの話をしましたが、バリューは命をかけて作る、命の言葉だと思っています。私たちはビジョンにもすごくこだわって。その結果、会社を作って1年半でビジョンを社名に変更しました。

それがいろいろなものにもつながって、事業開発にも事業創造につながっていきました。だからミッション・ビジョン・バリューを作ることは、採用においても事業においてもとても大事というのが、まず1点目。

2点目は、人の採用によって事業創造、社会創造、未来創造など、とても素敵なことがたくさん生まれるし、イノベーションが生まれたりテクノロジーが生まれたり本当にすばらしい機会だと思っていて。ここにこだわれるチームこそ、日本でも勝てるし世界でも勝てると思います。

ビズリーチの南(壮一郎)さんもそうですし、みなさんそうですけど、経営者はどれだけ採用にコミットできるかで自分たちの成長量が変わると思います。みなさんとそこに挑戦したいと思いますのでよろしくお願いします。

「どういう人と働きたいか」へのこだわり

中嶋:最後に奈緒子さん、お願いします。

佐俣奈緒子氏:今日はスタートアップの方々がたくさん聞かれているという前提でお話すると、スタートアップをやっていて楽しいと思うことが2つあると思っていて。

1つは自分たちが目指したい社会や、作りたいものを自らの手で作ることができるところ。もう1つが、それを誰とやるかを決められるところがすごく楽しいと思っています。

どういう人と働きたいか、どういう人をチームに入れたいのかを全部決められる責任と権限があるので、そこにこだわり続けるのはすごく重要だと思っています。そこに時間をかけることが、結局、自分たちが成し遂げたい世界に近づくことだと思っているので、妥協してはダメだと思っています。

その後の組織もすごく大事なんですけれど、やっぱり入り口、誰と働くかを決めていく採用はすごく重要で。そういうこだわりを持ち続けられるといいと思っています。

中嶋:ありがとうございます。僕自身、改めて採用に向き合う姿勢を正さないとと、今日は感じました。簡単にいい人って採れないと思いますし、やっぱり時間もかかるので、ついつい短期的な視点に囚われちゃうところはある。とはいえ、採用した後に長く定着してもらうためには、カルチャーが合っているかが非常に重要になってくる。

中長期で本当に価値があるのかどうか、会社としてできることはまだまだあると思いましたので、明日からぜひそういったところに向き合っていきたいと思います。

ちょうどお時間になりました。拙いモデレートですみません。今日はみなさんご視聴いただきありがとうございました。登壇者のみなさんもありがとうございました。

一同:ありがとうございました。