ナゴルノカラバフ紛争1カ月 歴史的遺恨、国内世論が攻勢拍車 ロシア影響力も限界

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爆撃で自宅が倒壊した女性を慰める近所の住民=ナゴルノカラバフで2020年10月17日、AP
爆撃で自宅が倒壊した女性を慰める近所の住民=ナゴルノカラバフで2020年10月17日、AP

 アルメニア人勢力が実効支配するアゼルバイジャンのナゴルノカラバフ周辺で始まった紛争は1カ月が経過した。ロシアなどの仲介による3度の停戦合意はすぐに破られ、トルコの支援を受けるアゼルバイジャンが攻勢を強める。旧ソ連時代から続く対立が再燃した背景を探った。【モスクワ前谷宏、エルサレム高橋宗男】

止まらぬ戦闘、問題解決の妙案なく

 「もし戦闘を止めたいのなら、我々の領土から立ち去ることだ。そうでなければ最後まで進む」

 アゼルバイジャンとアルメニア本国の間で3度目の停戦が始まった26日、直後に戦闘が再開される中、アゼルバイジャンのアリエフ大統領は演説でアルメニア軍の撤収を訴えた。これに対し、アルメニアのパシニャン首相は「降伏の用意はない」と反論。停戦で合意するが、相手側の違反を理由にして攻撃を再開する状態が続いている。

 今回の紛争は、約3万人が死亡したと推定される1988~94年の紛争以来、最大の軍事衝突に発展している。無人機を大量投入するアゼルバイジャン軍はイラン国境付近を中心に攻勢を強め、ナゴルノカラバフとアルメニア本国を結ぶ補給路の「ラチン回廊」付近に接近。カラバフ地域が孤立する恐れも出ている。

 90年代の紛争でアゼルバイジャンは領土の約2割を失い、約100万人とされる避難民を抱えることになった。失地回復を目指すアリエフ政権は天然資源の輸出で資金を調達し軍備を増強。今回は友好国トルコから支援を受け、100以上の集落などを奪回したとしており、国内で愛国的な雰囲気は高まっている。

 一方、アルメニアのパシニャン氏は野党時代にナゴルノカラバフ問題での融和姿勢を批判されてきたが、2018年の政変で首相に就いた後は求心力維持のため愛国的傾向を強めてきた。今回の紛争で敗北すれば再び政権交代が起こる可能性も指摘されており、簡単には強硬姿勢を崩せない状況だ。

 ロシアのプーチン大統領が両軍の死者を「計5000人に迫る」と指摘するなど被害は拡大。29日には赤十字国際委員会の仲介で約30人の遺体の引き渡しが行われ、冬の到来を前に一時停戦に向かうとの観測も出ている。ただ、戦闘が止まっても長年にわたる民族問題の解決は見通せない。

 カーネギー国際平和財団モスクワセンターのコレスニコフ上級研究員は「両国が愛国心への訴えを強める中、カラバフの問題を平和的に解決するチャンスはますます小さくなっている」と指摘する。

介入強めるトルコ 迷えるロシアのスキ突き

 アゼルバイジャン、アルメニア両国と関係の深いロシ…

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