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メルセデス・ベンツCクラスの“今昔”とは? 過去を振り返り、今を考える

メルセデス・ベンツ「Cクラス」のステーションワゴンに試乗したGQ JAPANデジタル・エディターの稲垣邦康が、かつて実家にあった初代Cクラス・ステーションワゴンを思い出した。初代と現行の違いとは?
メルセデス・ベンツ mercedesbenz cclass 190E ミディアム・クラス
Hiromitsu Yasui
メルセデス・ベンツ mercedes-benz c-class 190E ミディアム・クラス
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筆者とCクラスの思い出

熟成が進んだ現行メルセデス・ベンツCクラスのステーションワゴンに乗って、かつて実家にあった初代Cクラスのステーションワゴンを思い出した。

わが家にあったのはもっともベーシックなC200ステーションワゴンだった。稲垣家はじめてのメルセデス・ベンツである。低学年の小学生だった筆者は、メルセデス・ベンツが自宅にやってくるのを、大いに喜んだ覚えがある。1999年末だった。

【主要諸元(C220dステーションワゴン ローレウスエディション)】: 全長×全幅×全高:4720mm×1810mm×1440mm、ホイールベース2840mm、車両重量1730kg、乗車定員5名、エンジン1949cc直列4気筒DOHCディーゼルターボ(194ps/3800rpm、400Nm/1600〜2800rpm)、トランスミッション9AT、駆動方式RWD、タイヤサイズ(フロント)225/45R18(リア)245/40R18、価格666万円(OP含まず)。

Hiromitsu Yasui

当時、メルセデス・ベンツはCクラスやAクラスなど、従来モデルに比べ“手の届きやすい”モデルを投入し、拡販を推し進めていた。とはいえ、メルセデス・ベンツは今よりもっと高嶺の花だったように思う。世間の目が厳しかったからではないか?

と、いうのも、筆者の父が「周囲の目もあるからベンツなんか乗れない」と、購入に猛反対したからだ。当時、父は、さる地方銀行に勤めていた。父によれば「メルセデス・ベンツを銀行員が所有するわけにはいかない」とのことだった。

初代Cクラスのステーションワゴンは1996年に追加された。

Daimler AG

なぜか? 「銀行員は“お金”を扱うため、“クリーン”さが求められる。メルセデス・ベンツのような“成金”の象徴に見えないこともないクルマに乗っていたら、“クリーン”に見えなくなる」とは父の弁。今でこそ、多くの銀行員がメルセデス・ベンツを所有するものの、当時は前例がほとんどなかったらしい。「地方銀行だからでは?」と、思いもしたが、都市銀行も同様だったという。

それでも、メルセデス・ベンツを購入したのは母の意向だ。「どうしてもメルセデス・ベンツに乗りたい!」との意志は固かったようだし、年末だったせいか約40万円の値引きがあったのも大きかった。母にとって、メルセデス・ベンツに乗ることはステイタスだったようだ。

日本仕様の初代Cクラスステーションワゴンは、当初、2.3リッター直列4気筒ガソリン搭載の「C230ステーションワゴン」のみだったが、のちに、2.0リッター直列4気筒ガソリンエンジン搭載の「C200ステーションワゴン」が追加された。

Daimler AG

くわえて、それまで乗っていたボルボ「740GLTワゴン」の故障が頻発したという事情もあった。10歳に満たなかった筆者ですら、頻繁に故障し、工場入庫を繰り返していたのをよく覚えている。ゆえに、母は「ボルボはちょっと……」ということで、乗り換え候補から外していた。思えば、“ハズレ”の個体だったかもしれない。

母はメルセデス・ベンツ一択だった。父を説得するべく「メルセデス・ケアが付帯しているから3年間のメンテナンス保証はタダ。しかも、今ならキャンペーンで初回の車検費用もタダになるから!」と、保証がしっかりしている点を強調し、強引に買い替えてしまった。ちなみに、故障が頻発したボルボは約50万円で下取られたらしい。ボルボのディーラーでは20万円と言われたようだから、これも購入する決め手のひとつになったようだ。

立派になったが価格はほぼ据え置きか安くなった?

我が家にやってきたCクラスワゴンは、エメラルドブラックの車体色だった。エントリーグレードの「200」なので、装備はシンプル。ホイールはスチール製だし、オーディオはカセットデッキのみ。ディーラーオプションでCDチェンジャーを母がチョイスしたのがいかにも20年前らしい。

そんな当時のCクラスからすれば今のクラスは随分立派だ。試乗車は「ローレウス・エディション」と呼ぶ特別仕様車だから快適装備満載である。アルミホイールはAMGデザインだし、ナビゲーション・システムは標準。内装にはマットタイプのウッドパネルが備わる。

ちなみに20年前のC200ステーションワゴンは、ウッドではなくカーボンファイバー調の不思議なパネルが装着されていた。スポーティなイメージを演出したかったのだろうか? にもかかわらず決してカッコいいとはいえないワゴン専用のスチールホイールキャップがチグハグだった。

ナビゲーションシステムは全車標準装備。

Hiromitsu Yasui

試乗車はオプションのレザーエクスクルーシブパッケージ(46万4000円)装着車だったため、シート表皮はレザーだった。

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リアシートはセンターアームレスト付き。

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価格を調べると現行Cクラス・ステーションワゴンのエントリーグレード「C180ステーションワゴン」は467万2728円(以下、すべて税抜き)。1999年のC200ステーションワゴンの価格(1999年当時)は405万円だから、おおよそ20年で約62万円高価になっている。

が、装備やエンジンは格段にアップグレードした。現行は、16インチアルミホイールやHDDナビゲーションシステム、フロントシートの電動調整機構、アダプティブ・クルーズ・コントロールなどの運転支援装備は標準装備。搭載するエンジンも、初代で言えば「C240ステーションワゴン」に相当するパワーを持つ1.5リッター直列4気筒ガソリンターボだ(156ps/220Nm)。初代C200が搭載した136ps/190Nmの2.0リッター直列4気筒ガソリン・エンジンと比べたら差は大きい。

にもかかわらず差額が約62万円に収まっているのはお買い得のように思う。ちなみに、2.4リッターV6エンジンを搭載した初代C240ステーションワゴンの価格(1999年当時)は495万円であるが、当然ながらナビゲーションシステムなどは非搭載。現行C180ステーションワゴンはやっぱりお買い得なように思う。

もっとも当時と今とでは技術力も使用する素材なども異なるし、コストカットなどの“企業努力”に因るところも大きいだろうから、単純に、「現行モデルが最高!1番!」とは言えないだろう。古いメルセデスには、今とは異なる魅力があるのも事実。が、装備とスペックだけで判断すれば、お買い得としかいいようがない。もしかすると、1999年当時の価格設定が、高価なだけだったのかもしれないが……。

Cクラスとは思えぬ乗り心地

では、実際乗るといかに? これが驚くほどよかった。初代Cクラスと比較すれば……と、記したいところであるものの、小学生ゆえに運転はできなかったから、深くは比較することは出来ない。

当時「結構、うるさいなぁ」と思っていた室内が、ずいぶん静かになっていたのが印象的だった。試乗車はディーゼル・エンジンを搭載する「C220d」にもかかわらず、ディーゼル特有の音や振動は抑えられていた。

搭載するエンジンは、1949cc直列4気筒DOHCディーゼルターボ(194ps/3800rpm、400Nm/1600〜2800rpm)。

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駆動方式はRWD(後輪駆動)。グレードによっては4WDも選べる。

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走り出してすぐ、「え、Cクラスってこんなに乗り心地がいいの?」と、驚く。初代Cクラスの乗り心地も快適で、どんなに長距離の移動でも疲れ知らずで、かつ車酔いに襲われることは1度もなかった。その初代よりはるかに乗り心地がよく、路面の凹凸をしなやかにこなしていく。

ちょっと乗り心地が良すぎではないか? と、思い、よーく観察すると、センターコンソールに車高調整用スウィッチがあるではないか! 調べると試乗車にはスポーツプラスパッケージ(オプション)に含まれているエア・サスペンションシステム「AIR BODY CONTROLサスペンション」が備わっていた。パッケージ価格は33万9000円と高価ではあるものの、それに見合うだけの乗り心地だ。にしても、Cクラスにエアサスが装着出来るなんて……随分立派になったものだ。

ちなみに、このオプションを装着するとステアリング・ホイールはAMGデザインに、フロントシートはスポーツタイプに換装されるし、ヘッドアップディスプレイなども備わる。はたして33万9000円のうち、エアサス代はどれくらいなのだろうか……?

ステアリング・ホイールはAMGデザインの専用タイプ。

Hiromitsu Yasui

メーターはフルデジタル。表示パターンは複数から選べる。

Hiromitsu Yasui
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パワフルな2.0リッター直列4気筒ディーゼルターボエンジン(194ps/400Nm)を搭載するから、都心部のストップ・アンド・ゴーもスムーズ。ワインディングを走ったわけではないものの、少なくとも日常域で歯がゆさを感じる場面はないだろう。ちなみに初代C200ステーションワゴンについて、母は「遅かった。ボルボより遅かった」と、話していた。

おそらく現行のエントリーグレードであるC180でも、初代C200よりパワフルだから、普段使いには十分だろう。ちなみに、車両重量を調べたところ初代C200ステーションワゴンは1420kgで、現行C180ステーションワゴンは1550kgだから、その差は130kg。パワーウエイトレシオは前者が10.441kg/psであるのに対し後者は9.936kg/psだ。

もっとも、後日、小川フミオさんに訊くと「初代C200の印象? 190Eより軽くなって、速くなった点かな」と、述べていたから、初代の性能についての感じ方は人それぞれだろう。

190シリーズは1982年に登場。ステーションワゴンは設定されなかった。

Daimler AG

高速道路で、アダプティブ・クルーズ・コントロールを試す。アクセル&ブレーキ制御はスムーズだし、操舵支援もナチュラルだ。20年前に、こんなにも便利な運転支援装備が標準で備わるなんて、誰が予想しただろうか。ただし当時も、他社に先駆けてESP(横滑り防止装置)を標準化していたあたり、安全に対する高い理想は昔からだ。

初代と比べ、現行モデルは豪華かつパワフルになったのが印象的だった。振り返ると、わが家にあったC200ステーションワゴンは超シンプルだった。それゆえの魅力もあったと思うが、快適でゴージャスなほうがライバルに対する優位性は高まるはず。しかも、価格は、新たに搭載された装備などを考えると、20年前と据え置きかむしろ安くなっている、と感じた。

あらためてCクラスの進化に驚くのであった。

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文・稲垣邦康(GQ) 写真・安井宏充(Weekend.)