山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国は時間銀行による無料介護ボランティア派遣で高齢者問題の解決を目指す

山谷剛史

2020-10-21 07:00

 高齢化社会を一気に駆け上がる中国各地で、高齢化問題に向き合うサービス「バーチャル養老院」と「時間銀行」が続々と登場している。

 バーチャル養老院は、簡単にいえば料理、洗濯、掃除、買い物、看病、移動補助、話し相手など、さまざまなニーズに応える在宅サービスだ。中国はインターネットサービスが独自に発展して久しいが、高齢者の利用率は日本よりずっと低い。ネットでの注文はもちろんのことだが、そういう事情から電話でも受け付けている。注文履歴はビッグデータとして蓄積され、将来的には高齢者のニーズを予測することも可能になりそうだ。

 リモートでの利用が基本であり、コミュニケーションを取りたいときだけ専用の施設に行き、歌ったり、踊ったり、井戸端会議をしたりすることができる。利用価格は、中国内陸部にある蘭州市の場合、理髪が1回20元(約300円)、料理が毎日1時間の利用で1カ月当たり450元(約6800円)などとなっている。公的資金の補助も入ることで、一般的なサービスよりも安く利用できる。

 日本では高齢者になっても他人に迷惑をかけないという自己責任論が割とあると感じている。中国では、高齢者の面倒は家族が見るもので、老人ホームに送るという行為に抵抗がある。高齢者ビジネスというと、日本の老人ホームのノウハウを中国で活用し、ビジネスにしようとする意見も聞くが、伝統的価値観でいえば老人ホームを活用しようとする考えを持つ人は少数派だ。

 “姥捨て山”のようでよくないといった考え方が当たり前の環境においてもなお、面倒を見てくれる家族がいないという高齢者がいる。そうした人のためにバーチャル養老院はある。

 一方、時間銀行は、ボランティアとなって高齢者にサービスを提供すると、その分の時間が蓄積され、自らが高齢者となって介助が必要になったときに、その貯蓄した時間を使って他人に助けてもらうというものだ。現状では、障がい者や一人住まいの高齢者なら、他人の助けが必要とされる人々が対象となっている。つまり、貯金が十分にない障がい者や高齢者にボランティアで無償サービスを提供するバーチャル養老院と言ってもいい。

 時間銀行もまた、各地域が手探り状態で取り組んでいる。最も積極的でかつ報道されているのが南京で、市内全域で実施されている。ほかにも上海、広州、成都といった大都市から、湖北省咸寧市や広西チワン族自治区柳州市といった中小都市までさまざまなところで試行されている。南京以外は都市内の一部地域で試験的に行われているもので、高齢者を対象とすることから手書き対応や電話対応の有無や、貯蓄した時間をせっけんや食用油、トイレットペーパーなどの日用品に交換可能かどうかといった違いがある。

 それでは、どんな人が高齢者へのボランティア活動に参加しているのだろうか。各地の時間銀行についての報道によると、幼稚園児から90代の高齢者まで幅広い人がボランティア活動をしているが、最も多いのは50~60代の高齢者予備軍だ。やがて介助が必要になるときに備え、時間と体力に余裕があるときに後期高齢者に奉仕するわけだ。

 南京の場合、時間を貯め過ぎないよう調整が行われ、1500時間を超える場合は親族に譲渡したり、公共時間として寄付したりすることができる。また、時間銀行にある総貯蓄時間が多過ぎてアンバランスになる際は、各人が貯めた時間を市の定めるパート時給の10分の1で換金するとしている。

 南京のボランティア活動では、阿里巴巴(アリババ)系のキャッシュレス決済「支付宝(アリペイ)」か「我的南京」を利用する。貯蓄時間のデータが改ざんされないよう、ブロックチェーンを活用する。「南京市養老服務時間銀行系列標準」などの制度も策定し、ボランティア登録センターを南京市内に多数設置し、データ分析のための事務センターも開設した。

 ボランティア希望者は、オンライン/オフラインで講習を受けてから活動を開始するようにした。ボランティア業務は1~5つ星でランク付けされる。2019年に南京の一部地域でスタートした時間銀行のボランティア活動は、全域にサービスを拡大した10月上旬の段階で1万8000人超となり、3万人近い依頼があったそうだ。

 新たな地域通貨+保険のような時間銀行の仕組みだが、これと派遣型のバーチャル養老院の組み合わせで中国は高齢化社会を乗り切ろうとしている。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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