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 特許情報を使った調査・解析として大きな注目を集める「IPランドスケープ」。このIPランドスケープを活用し、人工知能(AI)を巡る技術開発競争について分析した。第1回では、量子コンピューターとAIチップの米中激突の状況をIPランドスケープであぶり出し、「IPランドスケープで深掘り分析」と題して論じた。第2回となる本稿では、医療分野において世界の主要企業の開発動向を分析した結果を論じたい。

AIを巡る各国企業間の技術競争〔俯瞰(ふかん)分析〕

 まずは前回のおさらいとなるが、深層学習(ディープラーニング)の普及が進んだ2013年以降のグローバル特許出願は、2020年6月公開時点で約4万5000件*1に及ぶ。俯瞰分析に使った出願人ランキングマップ(左側)と、出願人と技術分類*2との関係を示すマトリクスマップ(右側)は図1の通りである*3

図1●AI関連特許情報に基づく俯瞰分析(左:出願人ランキングマップ、右:マトリクスマップ)
図1●AI関連特許情報に基づく俯瞰分析(左:出願人ランキングマップ、右:マトリクスマップ)
(出所:知財ランドスケープ)
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*1 グローバル企業では、実質同一内容で複数国に出願することが多く、個別にカウントすると財力に余裕のある大企業の過度な評価につながりかねないため、一連の出願群を1ファミリー(1件扱い)とした。
*2  International Patent Classification(IPC)と称する技術分類を使ったが、コードとその説明文は一般には分かり難いため、説明文を適宜改変して記した。また、検索式に用いたIPC自体や、eコマース関連は各社特徴をあぶり出す上でノイズが多いため割愛した。
*3 時期的トレンド分析の一助として、各マップ上のバーチャートやパイチャートを時期ごとに区分した。時期の基準としては、出願日に比して技術開発タイミングに近い優先日、より具体的には1ファミリー中、最も早い優先日を採用した。出願人については、漏れ防止の観点から適宜名寄せやグルーピングを行った。

AI×医療を巡る各国企業間の開発競争(深掘り分析)

 新型コロナ禍が世界経済を揺るがす今日、医療分野におけるデジタル変革(DX)は喫緊の課題だ。おまけに、図1の通り、医療分野(医療診断/シミュレーション、診断のための検出/測定)においても外国勢が存在感を増しており、近年日本勢との差が広がっていて由々しき状況と言える。

 そこで、IPランドスケープによって「AI×医療」の切り口で深掘り分析を試みる。図2の通り、診断のための検出/測定でサブ母集団を切り出し、主要企業の個別分析を試みるべく、まずは米国の雄IBM(アイ・ビー・エム)と欧州の雄ドイツSiemens(シーメンス)とを技術分類ベースで直接比較した。

 その結果、IBMでは医療診断/シミュレーションへの傾注が、Siemensでは放射線診断や超音波診断、MRI診断への傾注が認められた。

図2●AI×診断のための検出/測定の深掘り分析(IBMとSiemensの技術分類別比較マップ)
図2●AI×診断のための検出/測定の深掘り分析(IBMとSiemensの技術分類別比較マップ)
(出所:知財ランドスケープ)
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