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タイの民主化デモは「文化的な蓄積が花開いた運動」 福冨渉さん寄稿

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福冨渉さん=吉田航太撮影
福冨渉さん=吉田航太撮影

 2014年の軍事クーデター以降、軍による政治支配が続くタイで、全土に民主化デモが広がっている。昨年の総選挙を経てなお事実上の軍事政権が継続したことに加え、今年2月に、民主化の希望とされた政党の新未来党が解党命令を受けたことと、新型コロナウイルスの感染症対策への不満が、今回の運動の契機になった。非常事態宣言とバンコクのロックダウンを受けて一時下火になったが、6月に発生した活動家の誘拐事件などを経て、7月になって再拡大した。

 現在のデモの特徴は以下になる。

 ①大学生をはじめとする若者が中心になっていること。中高生すらデモに参加し、学内では抗議活動を行っている。また、会場によっては女性の参加者のほうが多いとの報道もある。

 ②SNS(ネット交流サービス)を活用して情報が共有されていること。ツイッターなどでデモのテーマが議論され、ハッシュタグでスローガンが共有される。

 ③さまざまなシンボルが使用され、ポップカルチャーからの引用も見られること。映画「ハンガー・ゲーム」で描かれた3本指のサインが、2014年以降の反政府運動の象徴になっている。中高生は、反軍政を示す白いリボンを身につけて学校に通う。日本でも報道があったように、アニメ「ハム太郎」シリーズの主題歌の替え歌がデモで歌われたこともあった。

 ④対立していた人々が同じデモに参加していること。これまで2014年のクーデターと軍事政権を支持していたひとも、今回の民主化デモに参加している。

 ⑤王室の改革に言及していること。王室批判が不敬罪で厳しく制限されるタイだが、現国王ラーマ10世の「奇行」や恣意(しい)的な制度改変、王室が過去の政治的混乱において大きな影響力を発揮してきたことへの批判が高まり、「憲法の下の王室」を求める声につながった。前国王ラーマ9世の命日である10月13日には、著名な民主活動家が逮捕されたことを受けて、バンコクを走るラーマ10世の車列に向かって3本指のサインを掲げる多数の市民が現れた(むろん、いまだ熱狂的に王室を支持する市民も存在している)。

 だがこれを、政治的意識の高い若者による現代的なデモや世代間対立の一環と…

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