日本のPCR検査で「偽陽性」になる確率を計算する方法

直観に反する検査結果の数学的根拠とは

ソフトバンクグループが先日、新型コロナ感染の有無を判定するPCR検査の提供を開始した。これまでの公費による検査では、何らかの症状がある人や、感染者への濃厚接触者などに限って受診することができたが、ソフトバンクのような民間業者の検査ではお金を出せば誰でも受けられるようになる。このため「国民の安全や安心感の醸成につながる」との見方もあるが、実際はそれほど単純な話ではない。

と言うのも、現在の日本で誰でもPCR検査を受けられるようにすれば、受診者が陽性と判定される確率は極めて低い。しかし、もしも陽性と判定されれば、恐らくその半数以上は実はコロナに感染していない「偽陽性」になる。つまり検査結果の解釈が非常に悩ましい状況が生まれてしまうのだ。

〔PHOTO〕Gettyimages

ベイズ定理を使って計算すると

これに対処するには、「ベイズ定理」を学んでおく必要がある。それは以下の数式で表現される:

P(A|B)= P(B|A)× P(A)/ P(B)―――①

これを新型コロナのような病気の検査にあてはめて、偽陽性や偽陰性を計算させる問題は医師の国家試験でよく出題されるという。が、たとえ医師でなくても、ベイズ定理を正しく理解し、それを使って計算することは十分可能だ。

ただ、それを本稿のような文章で説明するのは非常に難しい。やはり数式計算の説明は、学校での授業・講義のような形式の方が適している。以前、筆者はベイズ定理のビデオ講義を公開したので、是非、それをご覧頂きたい:

https://rp.kddi-research.jp/books/videolecture_kobayashi

自分で言うのも何だが、このビデオ講義は非常に分かり易い。ベイズ定理による計算はこの講義に任せて、以下、本稿ではベイズ定理が持つ意義だけに絞って説明していきたい。なぜなら意義を理解しなければ、計算自体をやってみる気になれないからだ。

まず上記①で示したベイズ定理の一般的表記を、今回はコロナ感染を判定するPCR検査にあてはめると、次のような表記になる。

P(C|+)= P(+|C)× P(C)/ P(+)―――②

この数式でCはCoronaの略だと思って欲しい。また+は「PCR検査で陽性と判定されたこと」を意味する(-は当然、陰性)。

そして左辺のP(C|+)はいわゆる条件付き確率で、「+という条件の下でCである確率」つまり「PCR検査で陽性と判定された時、その人がコロナに感染している確率」を意味する。

逆に右辺にあるP(+|C)は「Cという条件の下で、+になる確率」つまり「コロナに感染した人がPCR検査を受けたとき、陽性と判定される確率」のことだ。

 

また同じく右辺にあるP(C)は、ある国の「感染率(コロナ感染者数/人口)」である。この感染率は実はどの国でも正確な数字は不明だ。しかしベイズ定理では、このP(C)が大雑把な見積もりに基づく主観的推定値であっても、それなりに意味のある結論を導き出してくれる。これがベイズ定理の長所である。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら

関連記事