ひょうご経済プラスTOP 経済 バンカー“半沢直樹”のあのセリフ…実は社の先人の言葉なんです 城南信用金庫理事長・川本恭治さん 

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バンカー“半沢直樹”のあのセリフ…実は社の先人の言葉なんです 城南信用金庫理事長・川本恭治さん 

2020.09.27
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東京都品川区、城南信金本店の資料室。両隣は小原鐵五郎第3代理事長(左)と加納久宜公の像

東京都品川区、城南信金本店の資料室。両隣は小原鐵五郎第3代理事長(左)と加納久宜公の像

 新型コロナ禍の下、地域と命運を共にする信用金庫は忙しい。首都圏を地盤とする業界の雄、城南信用金庫(東京都)に川本恭治理事長(58)を訪ねると「今こそ、われわれの出番だ」と鼻息が荒かった。急場の融資と息の長いビジネス支援の両輪で顧客の体力回復を図りつつ、10年がかりで組織した全国250の信金ネットワークの結束強化に、人と資金を割く。非常時の今、なぜ全国ネットに力を注ぐのか? そして、信金に求められる役割とは? 話を聞いていると、放送中の大ヒット銀行ドラマ「半沢直樹」でキラリと光った、あのセリフが飛び出した。(西井由比子)

 -新型コロナ禍は「リーマン・ショックと東日本大震災が一気に襲ってきたかのような衝撃」とも形容されます。

 「取引先への影響は深刻で、例えば8月の当金庫の融資は、件数ベースで前年同月比の5倍、金額ベースで9倍です。新規のお客さまも殺到していて、1500件ほど増えました。現場は3月ごろから忙しくなってきて、5月は大型連休を返上して対応しました。われわれも感染すると誰も店舗に出てこられなくなるので、2班態勢で取り組みました。出勤は1日置きですから、皆、今日受けた案件は今日のうちに仕上げて帰る。これまでなら、数日かけていたかもしれない業務です。そういう頑張りもあって、資金繰りはやっと一息ついたかなという状況です」

 「ただ、融資というのは、けがに絆創膏(ばんそうこう)を貼るようなもの。根本的な治療にはなりません。取りあえず落ち着いた今こそ、本業の支援をしっかりやっていかないと。今のところ当金庫のお客さまでは倒産はそんなに多くありませんが、やめたいという話はたくさん聞いています。このままだと、あと数カ月でまた運転資金が足りなくなる。次のピークは年末年始ごろでしょう。ですから、信金の全国ネットワークを活用した商談会など、やれることはどんどんやって顧客の経営体力の回復を急ぎたいのです」

 -全国ネットワークに力を入れておられます。そもそもどういった経緯で始めたのですか。

 「東日本大震災の被災地を支援するため、東北と東京の信金がビジネスマッチングや物販で連携したのが始まりです。そこから連携の輪を大きくしていきました。私は担当部署の部長として当初からずっとこの事業に関わっているので、思い入れもあります。震災翌年の2012年から1年に1度、地域連携イベント『よい仕事おこしフェア』を東京で開催してきました。昨年のフェアには全国229信金と521社・団体が参加し、2日間で4万7千人が来場しました。マッチングのウェブサイトも昨年から運用していて、さまざまなビジネスの誕生に一役買っています」

 -新ビジネスの具体例を教えてください。

 「ネットワークには、6千弱の中小企業が登録しているのですが、例えば、福島県の業者が貝殻を使った抗菌素材を開発したものの、福島の貝殻は放射能で汚染されている可能性があるから…と、事業に行き詰まったケースがありました。そこで他県の貝が欲しいと地元の信金に相談したところ、ネットワークを通じて千葉県の食品加工業者との連携が成立した。この業者は殻を、お金を払って捨てていたので、ウィンウィンというわけです。市町村や大学、新聞社、テレビ局との連携も始めたので、何か新たな展開につなげたいですね。メガバンクは大きいけれど、こういうネットワークはありませんし、地方銀行にも横の連携はない。地域密着の信金だからこそのきめ細かな全国ネットとして、大いにアピールしたいですね」

 -マッチング拠点「よい仕事おこしプラザ」を今年7月、東京・羽田に開設。11~12月には、お取り寄せサイトでの各地の逸品販売を計画しています。いずれも経費は城南信金の単独負担です。回り回って、城南の利益になるのでしょうか。

 「よく聞かれるのですが、リターンを見込んでのことではありません。皆でこの国難に打ち勝っていきたい。困っている人を助けるのが信用金庫の使命ですから、全国の困っている人をネットワークの皆で協力して支え合っていこうというのが、われわれの考えなんです。できるうちは、できることをする。羽田のプラザも、全国の皆さまに活用していただきたい」

 「当金庫には2人の偉大な先人がいます。一人は118年前に当金庫の礎をつくった加納久宜(ひさよし)公で、麻生太郎財務大臣の曽祖父に当たります。この方の教えは『一にも公益事業、二にも公益事業、ただ公益事業に尽くせ』。もう一人は、第3代理事長・会長の小原鐵五郎(おばらてつごろう)です。ドラマ『半沢直樹』の先日の放送に『貸すも親切、貸さぬも親切』というセリフがありましたが、実はこれ、小原会長の言葉なんです。お客さまのお役に立つ資金だったらどんどん融資しなさい。でも投資や投機など、お客さまにリスクのある融資は一切してはいけないよ、という教えなんですね。先人の教えを愚直に守って活動してきた結果が、今の姿なんです」

 -「貸すも親切、貸さぬも親切」。エピソードがありそうですね。

 「テレビの放送を見ていて、あのセリフが出てきたときは、どきっとしましたね。うれしかった。ドラマの中ではバンカーの矜持(きょうじ)として使われていましたが、もとはわれわれ信用金庫の神髄ですから。原作の池井戸潤さんは元三菱銀行の行員で、当金庫と同じ地区を担当していたことから、事情に詳しいらしいんですよ。それで、見せ場のセリフとして採用したんじゃないかと思います。そうそう、7月に開設した羽田のプラザもロケに使われたんですよ」

 -その小原鐵五郎氏は、どういう人だったのですか。

 「私が入職したころはまだ存命で、入職式の訓示は小原会長でした。信用金庫の神様と呼ばれていましたから、会長から直接訓示をいただいたのはすごく印象的でした。1989年に亡くなったのですが、子どもがいなかったこともあったんでしょう、全財産を自らつくった奨学基金に寄付されました。日本を支える若者が立派になってくれればいい、と言って」

 「小原会長の仏壇は、この本店内にあります。私は毎朝、会長に手を合わせてから仕事をスタートしているんです。貸すも親切-以外にも、『裾野金融』など小原語録、小原哲学と呼ばれる言葉は数々あります。会長の教えをしっかり守り、この国難を乗り越えたいと思う今日このごろです」

【かわもと・きょうじ】1962年和歌山市生まれ。明治大法学部卒、1985年入職。2019年6月から現職。週末に仕事おこしネットワークがらみで全国各地に赴くのが趣味。新型コロナ禍の今は自粛中。

【城南信用金庫】2019年度の預金量は3兆7千億円、貸出金量は2兆2千億円と全国2位。「貸すも親切、貸さぬも親切」という経営理念からカードローンを取り扱わず、バブル期にも株や土地、ゴルフ会員権への投機を目的とした融資は一切行わなかった。