コロナ禍で対立はますます加速
コロナ禍によって世界は大きく変化するというのが大多数の有識者の見解だ。その中で、フランスの人口学者で歴史家のエマニュエル・トッド氏は、自著の『大分断』まったく別の見方をする。
〈二〇二〇年、新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)が猛威を振るいました。多くの国はロックダウン(都市封鎖)を行ない、経済活動や人の行き来を停止しました。コロナ以後(ポスト・コロナ)について、私は「何も変わらないが、物事は加速し、悪化する」という考えです〉。
コロナ禍によって、グローバリゼーションに歯止めがかかり、国家機能が高まった。
しかし、トッド氏によれば、そのような傾向は、米国におけるトランプ大統領の誕生、英国のEU(欧州連合)からの離脱のように、コロナ禍以前から生じていたものに過ぎない。コロナ禍によって、米中対立が加速するとトッド氏は見る。
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〈中国とアメリカの間で起きているのは単なる貿易戦争ではありません。
トランプが大統領に当選した一つの理由は、アメリカの労働者たちが中国との競争に苦しんでいるからということもありますが、中国が地政学的な側面においても非常に攻撃的になってきているという点にも注目すべきでしょう。
そしてこの紛争は三つの側面を持っています。一つ目は貿易、二つ目が軍事、そして三つ目が文明です。なぜならば、全体主義で警察によって監視されている中国は民主主義を脅かす存在と見なされているからです。
問題は貿易戦争以上のものであり、むしろ地政学的な問題でしょう。世界一位のアメリカが中国にその地位を乗っとられるのをただ待っているわけがありません。これは良い悪いといった問題ではなく現実なのです〉。