安倍政権を振り返る

「グローバル外交も対韓関係悪化」 韓国 尹徳敏・韓国外国語大教授

尹徳敏氏(名村隆寛撮影)
尹徳敏氏(名村隆寛撮影)

 第1次安倍政権(2006年~07年)は日本経済が長期不況の中、わずか1年で終わったが、約5年後に発足した第2次政権は7年8カ月にわたる長期政権となり、安倍晋三首相は(バブル崩壊後に日本経済が停滞した)「失われた20年」の克服の契機をつくり、経済回復に尽くした。安倍氏の現実主義が経済政策に反映された。外交面では、米国との関係を強め、世界各国を回りグローバル外交を展開した。

 中でも人事がよかった。麻生太郎氏や岸田文雄氏ら別の派閥の領袖(りょうしゅう)を重要ポストに起用した上に、官僚出身の谷内正太郎氏を初代の国家安全保障局長に、黒田東彦氏を日銀総裁に抜擢(ばってき)するなど、官僚との関係も巧みにやった。こうした人選が安倍氏の政権運営を支えた。

 ただ1つ、残念なのが韓国との関係だ。関係悪化の意図はなかったと思われるが、安倍氏の歴史観には、韓国にとっては「歴史修正主義」的な面もあった。

 特にそうした考え方が明確に出たのは2015年8月に発表した「戦後70年談話」だ。安倍氏はこの時、日露戦争における勝利がアジアの人々を勇気づけた、と語った。(朝鮮半島の権益をめぐる争いで起きた日露戦争の結果、日本の保護国化、併合された)韓国としては、この歴史観は受け入れられない。韓国で日本との関係を良くしようという努力がある中、問題を難しくしてしまった面がある。

 韓国では歴史観を重視しており、安倍政権は特に13年から4年間の朴槿恵(パク・クネ)政権との相性が良くなかった。これが両国関係に響いた。続く左派の文在寅(ムン・ジェイン)政権も安倍政権とぶつかった。

 昨年の日本政府による韓国への輸出規制強化(輸出管理厳格化)は、韓国で「NO JAPAN」という民間レベルにまで広がる日本製品不買運動にまで発展した。この問題に対し、韓国人にとっては「安倍(首相)に責任がある」との思いが強い。これが実情だ。

 現状では、日本の首相が誰になろうが、両国関係は難しく変わりないと思う。ただ、韓日関係は、金泳三(キム・ヨンサム)政権下での悪化が金大中(キム・デジュン)・小渕恵三政権で改善したという前例がある。

 (次期大統領が就任する)1年8カ月後には韓日双方で現在とは違う政権となる。関係改善に向け、互いの次期政権がどのようなビジョンを持つかがカギとなる。(聞き手 ソウル・名村隆寛)

 ユン・ドンミン 韓国外国語大学教授。1959年生まれ。慶応大で政治学博士号を取得。90年代初めから韓国外交安保研究院教授を長年務め、朴槿恵政権では国家安保諮問団委員、統一準備委員会委員、国立外交院長などを歴任。主な著書に「危機の韓国安保」など。

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