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新型コロナ対策で在宅勤務の基盤整備が喫緊の課題に――。2020年、ユーザー企業のITへのニーズは大きく変わった。変化にいち早く対応し、解決策を提供できるベンダーが顧客の支持を得る。

 「テレワークでビデオ・音声会議の活用が一気に進んだ」(運輸業)、「2020年2月に導入したグループウエア/ビジネスチャットがリモートワークで有効だった」(製造業)。調査で募った自由意見から、ユーザー企業が2020年に入ってビデオ・音声会議やグループウエア/ビジネスチャットなど「新型コロナウイルス対策関連分野」の製品やサービスの導入を本格的に進めていると分かった。

 2019年までは、基幹系システムなどの開発や運用といった「既存IT分野」と、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAI(人工知能)などを駆使した「DX(デジタルトランスフォーメーション)関連分野」がユーザー企業にとって取り組むべきIT施策の中心だった。こうした動きに加えて、新たにITベンダーには新型コロナ対策関連を視野に、幅広い分野の提案ができる「総合力」が求められる。

図 ユーザー企業が重視するIT分野の変化とITベンダーに強く求められる力
図 ユーザー企業が重視するIT分野の変化とITベンダーに強く求められる力
新型コロナ対策で考慮すべきITは一気に拡大
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 テレワーク関連ソリューションについて「ITコンサルティング/上流設計関連サービス(情報サービス会社)」などでトップに立った大塚商会の朝香信一執行役員アプリケーションソリューションセンター長は次のように話す。「自社で在宅勤務を実践した経験を基に、ペーパーレス対策として文書管理や電子承認、電子サインなどを重要テーマと捉え総合的に提案している」。

 一方でユーザー企業はコロナ禍による環境の変化に素早く対応する必要性に迫られた。調査で寄せられた自由意見を分析したところ、「テレワーク環境の全社展開」「ネットワーク品質やパソコン供給の安定化」「デジタル化の阻害要因」に関する課題が際立った。ITベンダーはこうした変化に素早く気付き、迅速に問題を解決する「対応力」が問われている。

Web会議などが業務基盤に

 「テレワーク環境の全社展開」は、「ビデオ・音声会議システム/サービス」「グループウエア/ビジネスチャット」部門の製品が、ユーザー企業にとってテレワークに不可欠なコミュニケーション基盤へと変化したことを表す。ビデオ・音声会議に関する自由意見には「最近は非常に重宝している」(製造業)、「社会情勢的にWeb会議の必要性が増した」(医療・福祉)といった内容が目立つ。

 基盤化するツールに対する問題を指摘する声も少なくなかった。特に2020年3月に報道が相次いだ米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ZVC)のWeb会議サービス「Zoom」の情報セキュリティー問題に関する自由意見が多かった。ユーザー情報の一部を外部サービスに送っていたり、脆弱性が見つかったりした。

図 コミュニケーション基盤に関連する分野に対するコロナ禍でのユーザーの評価と指摘する課題やニーズ
図 コミュニケーション基盤に関連する分野に対するコロナ禍でのユーザーの評価と指摘する課題やニーズ
Web会議やチャットは好評だが課題も潜む
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 ZVCは2020年4月から6月にかけてZoomのセキュリティー対策を重点的に進めてきた。「明らかになった脆弱性への対策だけでなく、侵入テストを実施したりサービスの設計関連のデータを公開して外部から指摘を受けたりすることで脆弱性を見つけて解消してきた。安全性は高まっている」と、ZVC JAPANの佐賀文宣カントリーゼネラルマネージャーは説明する。

 グループウエア/ビジネスチャットについては「料金設定」「相次ぐ機能強化」「サポート体制」に関する不満が自由意見に多かった(末尾の別掲記事を参照)。こうした声に素早く応える対応力がベンダーには強く求められそうだ。