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地道な改良で魅力は加速する……新型スープラ試乗記

改良型エンジンを搭載するトヨタ「スープラRZ」に小川フミオが試乗した。違いはいかに?
GRスープラ  SUPRA トヨタ TOYOTA ガズーレーシング BMW Z4
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プラス47psの進化

日本のスポーツカーで出色なのが、トヨタが2019年に販売開始した「スープラ」だ。2020年4月28日に、トップ・オブ・ザ・レンジである「RZ」のパワーが引き上げられた。7月おわりにようやく、このパワフルな2シーターに乗ることが出来た。

これは速い。かつ、速いだけではない。しっかりしたステアリングフィールと、ハンドリングのよさは、一般道では片鱗しか味わえなかったが、それでもかなり感心させられた。サーキットだったら、すごいだろう……と、期待させる出来なのだ。

【主要諸元(RZ “Horizon blue edition”)】全長×全幅×全高:4380×1865×1290mm、ホイールベース2470mm、車両重量1530kg、乗車定員2名、エンジン2997cc直列6気筒ガソリンターボ(387ps/5800rpm、500Nm/1800〜5000rpm)、トランスミッション8AT、駆動方式RWD、タイヤサイズ(フロント)255/35ZR19(リア)275/35ZR19、価格741万3000円(OP含まず)。

スープラは、2.0リッター直列4気筒ガソリンターボ・エンジン搭載の「SZ」と「SZ-R」、それに3.0リッター直列6気筒ガソリンターボ・エンジンを搭載するRZの3本立てで構成されている。いいなぁと思う点は、3つのモデルはそれぞれキャラクターが違うところ。

SZの4気筒ユニットは197psの最高出力と320Nmの最大トルクを発揮する。SZ-Rは基本的に同じ1998ccながらチューンが上がっていて、258psと400Nmを誇る。

ふだん使いならどのモデルがいいか。それなら、4気筒モデルで充分楽しめる。それに対して、スープラの真髄を味わいたい、というスポーツカー好きにとって、公道ではもったいないぐらいのパフォーマンスを見せるのがRZだ。

試乗車は特別仕様の「RZ “Horizon blue edition”」。RZがベースで、販売台数は限定100台のみ。外板色は新規採用色のホライズンブルーだ。

搭載するエンジンは2997cc直列6気筒ガソリンターボ(387ps/5800rpm、500Nm/1800〜5000rpm)。従来型に対しプラス47ps、パワーアップした。

トランスミッションは8ATのみ。

今回のRZのマイナーチェンジは、リアルスポーツカーのファンに向けたものだ。最大の眼目はエンジン出力の向上である。従来の340psから387psへと最高出力が向上。最大トルクは500Nmで同一であるものの、発生回転数が従来の1600〜4500rpmから、今回1800〜5000rpmへ少しだけ上がった。

スープラは、トヨタ自動車/ガズーレーシングカンパニーと、BMWとで共同開発されたモデルなのは、ご存知のとおり。387psユニットは、BMW車(Z4 M40iなど)に搭載され市場に投入されている。

これまでのユニットでも充分すぎるほど速かったのになぜ? と、スープラの開発責任者である多田哲也チーフエンジニアに訊くと、「スポーツカーはつねにパワフルであることを期待されていますから」と、わかりやすい答が返ってきた。

19インチタイヤはミシュランの「PILOT SUPER SPORT」。

ブレーキキャリパーはスープラのロゴ入り。

実際、3.0リッターモデルのオーナーのなかには、よりパワーを求めるひとがいるという。それに対する回答が、今回の改良である。

「私たちは、どうしたらいままで以上に速く走れるクルマを作れるか? を、真剣に考えて、手を入れています。サーキットでの性能アップを目指して、エンジンルームに補強を入れるオーナーもいらっしゃいますが、それだけでは、やたら乗り心地が悪くなったりします。きちんと計算し、サスペンションシステムの設定まで見直してこそ、向上したパワーをフルに堪能していただけるんです」

車重は10kg増えて1530kgになったいっぽう、静止から100km/hまでの加速時間は、4.3秒から4.1秒へ縮まった。8段オートマチック変速機や最終減速比に変更はなく、エンジンを主体とした諸変更の恩恵だ。

低速域でも十分楽しめる!

多田氏は、「結果、かなりサーキット寄りの仕上がりになりました」と、言う。たしかに、試乗した日は雨にたたられたこともあり、一般道では低いギアをホールドしてエンジンのパワーをたっぷり味わいたい、というのは夢に終わった。いや、晴れていたとしても、RZを堪能するには、サーキットでないと無理だろう。

でも、胸のすく加速、頭のなかに響いてくる抜けのいいエンジン音(高回転になると排気音にエンハンサーをかけているという)など、低速域でも充分に楽しめる要素はたくさんある。あえて重めに設定した操舵力も、ダイレクトな応答性とあいまって、かなりいい雰囲気だ。

エンジンのパワーアップにあわせて、サスペンションを再チューニング。コーナリング中の安定性を高めたという。

特別仕様の RZ “Horizon blue edition”は、インパネやドアトリムなどにブルーステッチが施されている。

ステアリング・ホイールもブルーステッチ入り。

長いノーズ、後輪の上に座るようなドライビングポジション、後輪駆動……と、フロントエンジンの2シーター・スポーツカーの教科書のようなレイアウトを持つ。EV(電気自動車)がどんどん出てくる時代にあっても、トヨタ自動車は、スープラや、まもなく発売されるフルタイム4WDのホットハッチ、「GRヤリス」など、スポーツカーにこだわるのがすばらしい。

ドライブトレインやシャシーを基本的に共用するBMWのZ4がソフトトップのフルオープン2シーターなのに対して、スープラは競技への参加も前提としているため、クーペボディだ。

Z4もすばらしいハンドリングを楽しませてくれるモデルであるいっぽう、スープラは“マジメ”。べつの言い方をすると、レースへの参戦をひとつの目的としているように、より明確なターゲットを持っているように感じられる。

ボディ剛性も強化されたという。WLTCモード燃費は12.0km/L。

メーターはフルデジタル。

RZ “Horizon blue edition”のシート表皮はは人工皮革「アルカンターラ」と本革のコンビ。

ラゲッジルーム容量は290リッター。

さきに触れたとおり、エンジンパワーが向上したのを機に、補強を入れ、サーキット志向が強い仕上がりにしているのは、なによりの証明。スポーツカーにいちど乗ってみようかな? と、思っているひとは、この機会にスープラRZを手に入れ、サーキット走行にトライするのもいいだろう。

なお、改良にあわせて台数限定販売のマットストームグレーメタリックのボディカラーにくわえて、新規採用のホライゾンブルーの塗色を持った「ホライゾンブルーエディション」が限定100台、設定されている(この記事で紹介している仕様)。

最小回転半径は5.2m。

ホライゾンブルーエディションには、マットブラック塗装された19インチの鍛造ロードホイールを装備。さらに、人工皮革「アルカンターラ」とレザーを組み合わせたスポーツシートには、外板色とカラーキーしたブルーのステッチが入る。スープラRZの購入を検討している人には、こちらもオススメしたい。落ち着いたブルーが、スープラによく似合っている。

スープラRZの価格は731万3000円、ホライゾンブルーエディションは741万3000円。SZ(499万5000円)やSZ-R(601万3000円)に対しての価格差は、みごとな回転マナーを持つ直列6気筒エンジンと、それを活かしきろうというシャシー性能で正当化されるのではないだろうか。

文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)