経済インサイド

日銀の黒田総裁「日本経済は底入れした」は本当か 最悪期は脱するも残るリスク

記者会見する日本銀行の黒田東彦総裁=15日、東京都中央区(代表撮影)
記者会見する日本銀行の黒田東彦総裁=15日、東京都中央区(代表撮影)

全体としての日本経済は底を打って回復しつつある-。7月15日の記者会見で日本銀行の黒田東彦総裁が述べた言葉だ。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い落ち込んだ日本経済が、下げ止まって回復基調に転じた(底を打った)というのだ。緊急事態宣言は5月下旬に全面解除されたものの、東京都を中心に再び感染が拡大している。本当に日本経済は「底を打った」のだろうか。

「モノの消費や生産は底を打った」。15日の会見で黒田総裁は経済が底を打った理由として、「消費」と「生産」の動向をあげた。

実際はどうか。日本百貨店協会が21日発表した6月の全国百貨店売上高は、既存店ベースで前年同月比19.1%減。大きなマイナスに変わりはないが、緊急事態宣言の全面解除を受けた営業再開などにより、5月の65.6%減と比べて大きく改善している。

下げ止まったといえなくもないが、東京都を中心に新型コロナの感染が再拡大している影響などで、7月1~16日の主要百貨店の売上高は前年同期比約25%減と振るわず、油断はできない状況だ。

ただ、全体としては消費の減少は下げ止まったようだ。景気が上向き需要が高まると、モノが売れるようになり価格も上がる。このため経済の体温計とも呼ばれる消費者物価指数は、6月の生鮮食品を除く指数が前年同月比で横ばいとなった。物価は前月まで2カ月連続で下落していたが、3カ月ぶりに下げ止まった形だ。

もう一つ、黒田総裁が日本経済が底を打った理由としてあげた「生産」のほうはどうか。

日本工作機械工業会によれば、国内工作機械メーカーの6月の受注総額(確報値)は、前年同月比32.1%減の671億円だった。こちらも下落幅自体は大きいものの、一部で持ち直しの動きがみられ、前月(52.8%減)から下落率は縮小。600億円を上回るのは3カ月ぶりとなる。

とくに、早期に経済活動を再開した中国向けを中心とした輸出の回復が目立つ。

財務省の貿易統計(速報)によれば、6月の輸出は前年同月比26.2%減の4兆8620億円。4カ月連続の2桁減少となったものの、こちらも下げ幅は5月(28.3%減)に比べ改善。中国向け輸出は0.2%減の1兆2431億円とほぼ前年並みにまで回復している。日本工作機械工業会の飯村幸生会長(芝浦機械会長)は、21日の記者会見で「早期に経済活動が再開した中国の回復傾向が顕著だ」と指摘した。

政府も日銀と同様の見方をしている。7月の月例経済報告で、政府は国内景気の判断を「このところ持ち直しの動きが見られる」とし、6月の「下げ止まりつつある」から上方修正した。7月の個別項目では、個人消費や生産、輸出、公共投資など6項目の判断を引き上げた。

ただ、政府は設備投資について「弱含んでいる」と厳しい見解を維持した。「設備投資が今のところ非常に堅調だ」とみる日銀の黒田総裁とは見方が別れる。日銀が全国9地域の景気判断をまとめた7月の地域経済報告(さくらリポート)では、「鈍化」しつつも、東海など4地域で設備投資が「増勢」と判断されている。こうしたことを背景に、黒田総裁は設備投資に関しても「堅調」とみているようだ。

もっとも、新型コロナの影響は長期化しそうだ。黒田総裁も「(観光など)対面サービス関係は新型コロナの心配がなくならない限り完全には戻らない」と強調している。

観光庁によれば、日本を6月に訪れた外国人は2600人と、前年同月比は3カ月連続で99.9%減となった。訪日外国人向けの需要はほぼ消失。日本百貨店協会によれば、6月の訪日外国人による免税売上高は90.5%減だった。

緊急事態宣言が出ていた5月の数字だが、観光庁の宿泊旅行統計(速報値)によれば、5月の国内の旅館、ホテルに泊まった人は前年同月比84.8%減の延べ781万人だった。政府は7月から「Go To トラベル」事業を始めたが、東京都が除外されるなど、その効果は未知数だ。

SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストは「一番落ち込んでいた消費と輸出の回復で、日本経済は底入れした。ただ、旅行や外食などサービス系の回復は緩やかなものになる」と指摘。日本経済は最悪期を脱したとみる。

足元では、新型コロナの感染が再び拡大しており、このリスクをどう見るか。

黒田総裁は日本経済は底を打って、今年後半から徐々に改善していくというシナリオを描く。しかし、そのストーリーは「大規模な感染症の第2波が生じない」(黒田総裁)ことが前提だ。特効薬やワクチンが開発され、広く行きわたらない限り、日本経済は大きなリスクにさらされ続けることになる。(経済本部 大柳聡庸)

会員限定記事会員サービス詳細