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劇団ノーミーツの「むこうのくに」に学ぶ、リモートエンタメがNetflixに勝つ方法

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:むこうのくにウェブサイト)

この4連休の間、フルリモートでの演劇で注目されている劇団ノーミーツの第二弾公演が上演されているのをご存じでしょうか。

劇団ノーミーツといえば、第一弾の長編公演となる「門外不出モラトリアム」が有料チケットを累計で5000枚以上販売するなど大きな注目を集め、テレビでも多数取り上げられていたので、ご覧になった方も多いかもしれません。

参考:有料チケットを5000枚以上販売。「劇団ノーミーツ」会わない制約から生まれた新しいエンタメの可能性

その第二弾の長編公演となるのが「むこうのくに」です。

正直な話を言うと、個人的には第一弾の「門外不出モラトリアム」があまりに衝撃的な体験だったので、今回の「むこうのくに」にはちょっと勝手に不安感を感じていました。

前回の「門外不出モラトリアム」は時期的にも緊急事態宣言下という、リモートエンタメに最適なタイミングでもあり、ストーリー的にも自分の境遇とシンクロする点もあり、Zoomという画面の使い方とストーリーが完璧にマッチングしていた作品だったと認識しています。

参考:不要不急だからこそ求められる、コロナ時代のリモートエンタメの可能性

ただ、そういう意味でのZoom演劇には、可能性を感じる一方で、分割画面という表現手法に限界を感じる点も多く、あの感動を超えるのは難しいのではないかなと勝手に考えていたわけです。

ただ、劇団ノーミーツは、そんな素人の勝手な心配を楽々と乗り越えていきました。

(※ネタバレを避けながらキャプチャー画像を紹介するのが難しいので、一部ネタバレをご容赦下さい。)

「Zoom演劇」から「リモート演劇」への進化

今回の「むこうのくに」の舞台は、ヘルベチカという仮想空間。

おそらくは、OBSというライブストリーミング用ソフトによる画面作成と、Vimeoという動画配信サービスのカスタマイズ機能を駆使することで、新しい仮想空間を通じた演劇体験を再現しています。

前回の門外不出モラトリアムは、元々Zoomウェビナーで配信を想定していたことから、Zoomそのままの画面が前提になっていました。

その結果、没入感は高い一方で、基本的には視聴者はZoomの会議同様に、同じ所から同じ場所を見ている感覚におそわれます。

そういう意味でタイムトラベルものというのは素晴らしい選択でした。

そのため、個人的には、第二弾の作品が、第一弾の感動を超えるのは難しいだろう、と勝手に思ってしまっていたわけです。

ただ、当然、劇団ノーミーツの方々も、そんなことは百も承知。

今回は、Zoomそのままのシーンは数を減らし、メインはZoomの映像を背景画像に組み合わせる形でヘルベチカの世界を構成。

(出典:劇団ノーミーツ「むこうのくに」)
(出典:劇団ノーミーツ「むこうのくに」)

実際の演劇の舞台背景同様に、画面の背景で場所を表現することで、演劇らしい場面転換を実現されています。

劇団ノーミーツがいわゆる狭い意味での「Zoom演劇」から、広い意味での「リモート演劇」の1つの形を確立したな、と感じる回でした。

このノウハウは今後公開されていくようですから、劇団ノーミーツが確立した「リモート演劇」という新しいカテゴリーがこれから日本で花開いていく可能性も、ついつい期待してしまいます。

 

 

 

双方向性や演劇ならではの要素も強化

さらに、個人的に注目したのは、今回の「むこうのくに」では、動画配信サービスのカスタマイズ機能を駆使して、演劇中の投票機能の利用にも挑戦されていた点。

今回は、あくまで双方向感の演出としての要素に見えましたが、将来的な観客と作る演劇や、観客の選択でストーリーが変わるマルチストーリー導入への可能性も感じさせてくれました。

また、さらに今回の8公演の間に、キーマンとなる役者が入れ替わるいわゆるダブルキャストも採用しており、演劇らしさが前回よりも際立っているように感じます。

(出典:「むこうのくに」ウェブサイト)
(出典:「むこうのくに」ウェブサイト)

ダブルキャストにより劇の印象も変わるため、それを体験するために複数回視聴している人も少なくないようです。

PCやスマホの画面で見られるエンタメという意味では、「リモートエンタメ」は一歩間違えると、NetflixやDisney+、Amazonプライムのような動画配信サービスと正面から競争することになってしまいます。

「むこうのくに」のチケットは、2800円。

Netflixが月額1000円弱で1ヶ月動画が見放題なことを考えると、決して安い値段ではありません。

ただ、劇団ノーミーツは、生の「演劇」ならでは、「リモートエンタメ」ならではの、双方向の形や一期一会の特徴を強化することで、その1つの回答を見つけようとしているように感じます。

その結果、「むこうのくに」の各公演には、安定して300人〜600人の観客が集まっているようです。

コロナウイルスにより、さまざまな演劇や公演が中止に追い込まれている昨今ですが、劇団ノーミーツの挑戦から学べることがたくさんあるはず。

いよいよ、今日、日曜日が最終日になりますが、公演の15分前までチケットは買えるようです。

是非、リモートエンタメの可能性を体感してみて下さい。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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