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 クルマへのサイバー攻撃で「電池」が標的になる可能性をドイツInfineon Technologies(インフィニオンテクノロジーズ)が指摘した。ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(EV)などが搭載するリチウムイオン電池の管理システム(BMS)がサイバー攻撃を受けると、最悪の場合、電池が爆発/炎上する危険性があるという。

車載事業本部アプリケーションマネジメントディレクターのクレメンス・ミュラー氏
車載事業本部アプリケーションマネジメントディレクターのクレメンス・ミュラー氏
(出所:インフィニオン)
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 リチウムイオン電池を安全に長持ちさせるためには、充放電プロファイルや温度注)を適切に管理するBMSが欠かせない。BMSは、電池セル/モジュールの電圧や温度を多数のセンサーで監視しながら、加速や回生などに伴う充放電を適切に制御する。各センサーは電池セル/モジュールに近接配置するため、BMSの制御部とネットワークでつながる。さらにBMS自体も車載ネットワークで他のECU(電子制御ユニット)と通信する。

注)電池が動作する上で最も都合がいい温度は「20~40度」(同氏)とする。この条件を外れると、「電池容量や航続可能距離が3割ほど減ることがある」(同氏)。また、使用可能な温度範囲は-20~60度で、この条件を外れると電池の劣化や、熱暴走による故障などが起きやすくなる。

 今後、クルマにコネクテッド機能が入ると、BMSが車外ともつながる。「悪意を持ってBMSの充放電プロファイルなどを書き換えられると、重大な事故につながりかねない」と同社車載事業本部アプリケーションマネジメントディレクターのクレメンス・ミュラー(Clemens Mueller)氏は警告する。BMSには高度な機能安全性に加え、「今後はセキュリティー対策が必須」(同氏)といえる。

 具体的には、BMSの各種設定情報を高度なセキュリティーで保護することが重要とする。また、電池を交換する際に、電池のパックやモジュールが純正品かどうかを識別する認証技術も欠かせないと述べた。さらに、「フライトレコーダー」のように、電池の使用履歴を確実に保護する技術も必要と指摘した。これは、電池に事故が生じた際に、その原因を保険会社などが調べる際に役立つほか、レンタカーの従量課金制度などにも使えるという。

 同社はすでに電池セルの監視や残容量の計測、劣化状態の予測などを担うさまざまなBMS向け半導体を手掛けているが(関連記事)、今後はセキュリティーに力を入れる。同社はもともとセキュリティーICの世界的なサプライヤーであり、その強みを生かして電動車向けの半導体事業を拡大したい考えである。

さまざまなBMS向け半導体を手掛ける
さまざまなBMS向け半導体を手掛ける
(出所:インフィニオン)
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