「脱はんこ」IT大手主導で動く 政府も制度整備前倒し

総務省などが入るビル=東京都千代田区
総務省などが入るビル=東京都千代田区

 政府が17日に決定した規制改革実施計画には、行政手続きなどでの押印(はんこ)の廃止によるデジタル化も盛り込まれた。新型コロナウイルスの感染拡大によって在宅勤務が広がる中、日本特有の「はんこ文化」を変える機運は高まっている。書類の押印のために出社を余儀なくされるケースが相次ぎ、在宅勤務の妨げになっているからだ。IT大手などで取り組みが先行する一方、政府も電子書類が本物であると認証する公的制度の整備を前倒しする方針で、官民で「脱はんこ」の動きが広がりつつある。

 「徐々に導入する考えを一気に入れる方針に転換した」。IT大手のヤフーは5月中旬、取引先との契約の押印や署名を電子サインに切り替え、来年3月末までに民間取引先との契約で「100%電子サイン化」を目指すと発表した。法務統括本部の生平正幸室長は、コロナ禍に伴う押印への問題意識の高まりが背景にあると語る。

 はんこ要らずの電子契約は実務的なメリットも大きい。ヤフーは昨年からいち早く電子契約を導入し始めており、生平氏は「一度使うと便利でもう元には戻れない」と話す。例えば、海外企業との契約では紙のやり取りで1カ月かかっていたが、ほぼ1日で済む。郵送手続きの手間や印紙代などの費用も減らせる。

 押印の廃止にはフリマアプリのメルカリやGMOインターネットなど、デジタル技術の活用にたけた他のIT大手も相次いで乗り出している。ただ、電子契約は取引先の了承を得られなければ実現しない。ヤフーでは現時点で電子サインに切り替わった契約は全体の約3割にとどまるという。

 電子契約を阻む要因の一つが日本に根付いた紙に押印することを重視する商慣習だ。実は、契約や稟議(りんぎ)など社内文書へ押印の大半は法律で定められているものではないが、ビジネス慣行として続けられ、とくに「大企業や金融機関などに根強く残る」(メルカリ担当者)。行政関連の手続きで紙の書類が求められるケースが多いのも、企業が導入をためらう一因になっている。

 こうした状況を受け、政府も脱はんこに本腰を入れ始めた。総務省は電子書類が作成された時刻を証明し、その後改変されていないことを保証する「タイムスタンプ」について、民間事業者が認定作業を行う仕組みを今年度から公的な認定制度に衣替えする。令和3年度には電子的な社印にあたる「eシール」の認定制度も設ける方針だ。ともに当初予定より運用を1年程度前倒しして、遅れていた脱はんこの環境づくりを急ぐ。(万福博之)

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