かんぽ報道を巡るNHK会長厳重注意 経営委の議事全容

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2018年7月から11月にかけ、日本郵政グループ側からNHKに送られた「ガバナンス」に関する申し入れ文書や、会長厳重注意への謝意を経営委員会に伝える文書など=北山夏帆撮影
2018年7月から11月にかけ、日本郵政グループ側からNHKに送られた「ガバナンス」に関する申し入れ文書や、会長厳重注意への謝意を経営委員会に伝える文書など=北山夏帆撮影

 かんぽ生命保険の不正販売を報じた2018年4月のNHKの番組を巡り、NHK経営委員会が当時の上田良一会長を厳重注意した同年10月23日の議事の全容が判明した。番組を巡って抗議を繰り返していた日本郵政グループに対し、会長としての対応を迫る経営委の首脳2人らに、上田氏が抵抗する様子が見て取れる。

きちんと対応すべきだ 森下代行

 石原進委員長 経営委に(郵政グループ3社から10月5日に)申し入れ文書が来たNHKのガバナンス(統治)について、執行部の対応を監査委が調査した。

 監査委員 調査の結果、情報は危機管理対応窓口の部長、制作担当部局の局長(大型企画開発センター長)、放送総局長(専務理事)、会長にいち早く報告され、組織対応していた。ガバナンス上の瑕疵(かし)は認められない。

 石原氏 ガバナンス上の問題はないとの報告だが、何か意見は。

 経営委員A 番組責任者(チーフプロデューサー)が「会長は番組制作に関与していない」と、(7月に、関連ネット動画の削除を会長に求めてきた郵政側へ)説明した点はまずかったのではないか。

 監査委員 (8月3日に番組責任者の上司である)大型企画開発センター長は郵政側に「間違い」とは言わなかったが、「説明不足、言葉足らずだった」と説明した。説明責任は果たしている。

 委員B 郵政側にも取材し、番組自体に問題はないと感じた。問題は対応ではなく、現場で制作する人がこういう発言をしたこと。本来の意味でのガバナンス、会長の統率力という点で残念だ。

 監査委員 番組責任者は「編集に関しては、一義的には内容をよく知っている(現場の)私たちが責任を持っている」という趣旨で話したと言っている。「(番組編集の)最終責任は当然、会長にある」という説明はその後、大型企画開発センター長が(郵政側に)伝えた。

 森下俊三委員長代行 問題が2点ある。一つは、今回の番組の取材は極めて稚拙で、取材をほとんどしていないということ。4月の番組は郵政には取材を全然していない。インタビューの一部を捉え、全く取材行為がない。自分たちのストーリーで進めている。ネット(の動画で募集した)情報は極めて偏っているから、現場がどうなっているかを見なければいけない。それをやらないから、(取材を要請しても)郵政側は出ない。それで番組はうまくいかず、続編はやらなくなった。番組の作り方の問題と執行部は考えるべきだ。ネット(の情報)をうのみにしたのは問題だ。もう一つは、視聴者目線に立っていない。主義主張によって視聴者の意見が分かれる番組はあると思う。一つ一つの意見に答えることはできないが、報道的な番組ではきちんと対応すべきだ。「中で統制は利いていた」と言うが、外からは見えない。

 委員C クレームへの対応より、番組の作り方で若干、(郵政側の)商品に誤解を与えるような説明があると感じた。特殊な商品については専門家も入れて番組を見て、妥当かどうか検証すべきだ。

 委員D 郵政グループには地方で頑張っている職員も多い。ニュースでは批判的な意見があった時は、もう片側の違う意見も入るが、今回は一方的になり過ぎた気がする。

 委員E (郵政側から8月に届いた番組編集権を巡るガバナンスを問う)会長宛ての文書に返答しないままになっていたのは、まずいのではないか。(郵政3社長が)連名で書いてきているので、トップがしかるべき対応をすべきだ。

 石原氏 これはガバナンスの問題だ。NHKは(世間で)信頼されているから、郵政もこだわる。しかも、(番組や7月に公開したネット動画の)「詐欺」「押し売り」といった言葉は非常に抵抗感がある。郵政3社長の文書には会長として直接のアクションを示すべきだ。

 委員F 番組から議論が始まっているが、番組の問題であれば、経営委員として言えることはない。会長のガバナンスができていないという話になるが、番組の話をガバナンスの問題に結びつけていいのか。要注意だ。

 村田晃嗣委員 会長が文書に返事を出さなかったのは、局長レベルで対応できていると判断したからか。

 監査委員 報告した通り、この話は会長の指示で対応している。(8月を目指した)続編についても会長の指示に従い、放送総局長が命じて放送を止めた。

 委員G ガバナンスに直接関係はないが、(番組で)インタビューに応じた郵政2社の役員が(不正販売を)強く否定しなかった。番組の流れを理解しないまま、取材を受けたのではないか。番組の作り方に公平性を欠く要因がなかったか。ガバナンス以前の問題を感じた。

 委員B 経営委は番組について議論する場ではないが、こういう問題では番組内容に踏み込まざるを得ない。そこをどう考えるか。

 監査委員 私が確認したのは、あくまでガバナンスがどう利いていたかだ。番組とは切り離し、内容には一切触れていない。

 石原氏 経営委の仕事である役員の職務の執行の監督に当たっては、何があったのかを知らないと議論にならない。ガバナンスに間違いがあれば正す必要がある。4月の番組の制作には郵政も協力した。その番組に詐欺とか押し売りという言葉が出てきた。それについて郵政が抗議した。それは抗議する。「ちゃんと正します」と(郵政側が)言っているのに、(続編に向けて)すぐにネット動画を作った。正すための余裕もなく、すぐやるのかということが郵政の抗議の原因だ。会長から発言はあるか。

 上田良一会長 番組内容に関わる事柄は返答を控えるが、業務執行に当たっては適切に対処する。

 石原氏 では経営委員だけで話し合う。

 <この日の経営委には委員12人全員(うち監査委員3人)が出席。上田氏が退出後、委員のみで話し合った。会長に厳重注意を伝えることが提案され、反対する意見は出ず、注意の文案について意見交換した。経営委から郵政3社に書状を送ることとともに、「委員12人の総意」として合意した>

個別番組に絡む形、難しい 上田会長

 <上田氏が再入室し、石原氏が厳重注意の文面を読み上げた>

 石原氏 今回のことについて、いまだ郵政3社側にご理解いただける対応ができていないことについて、経営委員会として、誠に遺憾に思っているところです。NHKは、ガバナンス体制をさらに徹底するとともに、視聴者目線に立った適切な対応を行う必要があります。こうしたことを踏まえ、当委員会は会長に対し、必要な措置を講ずるよう厳しく伝え、注意することとします。なお、必要な措置については、後日、経営委員会に報告いただきたい。

 上田氏 監査委からは問題ないと報告されたが、ガバナンスの問題と言われ、番組の編集過程を(会長が)しっかりと見ていけといったことになると、私は何を、どう(郵政側に)返事したらいいのか。個別番組に絡む形での対応は難しい。

 石原氏 個別の番組に意見するつもりはない。ただ、相手が全く納得していない。郵政3社が連名で会長に問い合わせと動画取り下げを要請したが、会長として何もしていない。

 上田氏…

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