JR九州 株主総会、ファンド案否決 コロナ下「対話」難航
JR九州は23日、福岡市で株主総会を開いた。大株主となっている米投資ファンド、ファーツリー・パートナーズが提案していた取締役選任など、全ての株主提案は否決された。会社提案の信任を得た経営陣は、駅ビル開発や不採算路線の見直しなど多くの課題に取り組みながら、新型コロナウイルス下での業績改善を目指すことになる。
ファーツリーは今回、不動産投資などに詳しい社外取締役3人の選任や、商用不動産などの収益情報開示を提案していた。一方、JR九州は5月の取締役会でファーツリーの提案に反対することを決議。株主に対しても賛成しないように働きかけてきた。
「この案に対し、取締役会は反対をしています」。午前10時から同市博多区のホテルで始まった株主総会。議長を務めた青柳俊彦社長は、ファーツリーの4つの議案を順に紹介した上で、いずれも会社が反対していることを強調。出席した約130人の株主に採決を求めた。会場でファンド案への賛成を示す拍手はまばらだった。
新型コロナの感染防止を考慮し、JR九州は株主にインターネットや郵送を通じた事前投票を呼びかけており、総会開催前には会社案が大勢で可決される見通しになっていた。総会での採決も合わせ、ファンド案はいずれも否決され、会社提案の取締役選任などが可決された。
「ファーツリーの株主提案にはコロナの影響が考慮されていなかった。それどころではないという我々の思いが株主に伝わってよかった」。総会後に記者会見した青柳社長は強調した。
ファーツリーは小売・外食、ホテル・不動産など多角化を進めるJR九州の事業モデルに着目し、同社株を買い集めてきた。昨年、自社株買いや取締役の選任など、初めて株主提案を提出した。結果は全て否決・不成立となったが、一部の議案は過半数に迫る4割以上の賛成を集めた。JR九州は昨秋、上場以来初めて自社株買いを実施し、ファーツリーの要求に事実上応えた。
この時の経緯に危機感を強めたJR九州は、ファーツリーと「お互いに訪米したり、訪日したりしながら、何度も対話を続けてきた」(JR九州幹部)。しかし5月上旬頃、ファーツリーの投資責任者だったアーロン・スターン氏が突然辞任する。スターン氏は昨年の提案内容をまとめたファンドの中心人物だ。
「辞任の連絡なんてない。衝撃を受けた」。同幹部は経営状況などを理解してもらうために積み重ねてきた努力が失われたようなむなしさを感じていた。
ファンド情報を伝える米ニュースサイトによると、スターン氏は「新しいファンドを立ち上げる」とされるが、正確な理由は不明だ。スターン氏辞任後、JR九州とファーツリーのやり取りは書面だけになった。
ただファーツリーは今年は自社株買いの要求をしなかった。新型コロナの感染拡大で多くの企業の業績が悪化。モノ言う株主は他社のケースでも、自社株買いや増配、資産売却など、短期的な利益還元を強く求めにくくなっている。
JR九州も新型コロナで鉄道利用客が急減し、20年1~3月期は38億円の最終赤字に陥った。資金繰りを確保するため、5月には金融機関との間で計1200億円の融資枠(コミットメントライン)を設定したと発表した。
23日の株主総会に出席した長崎市在住の男性株主は「コロナで大変苦しい状況になっている。会社を支える必要があると思った」とファンド案に反対した。青柳社長は会見で、会社案とファンド案の票差が「昨年より開いていた」と明かし、ファンド以外の株主から理解を得られたと手応えを感じている。
提案は否決されたが、ファーツリーはコロナ下で業績改善を進めるためにも、不動産投資の効率化や資産運用に詳しい専門家の登用を求めていた。今後も不動産事業のテコ入れなどを働きかけていくとみられる。
JR九州の経営陣はコロナ禍で生まれた「ニューノーマル(新常態)」に対応した新しいビジネスモデルの構築を迫られている。(荒木望)